初めは彼女からぐいぐい来たのだと記憶している。 ネズさんですよね? わたしファンなんです。よかったらツーショットお願いします。 最初の言葉は鮮明に覚えている。ジムリーダーのネズのファンだという彼女は狭いディスプレイに収まったツーショットをしみじみ眺めながら「こんなところで会うなんて」と言っていた。おれたちはたまたま近所に住んでいた。 ファンっていうか、好きなんです、男性として。 二言目も強烈に覚えている。いきなりそんなことを言う女に初めて出会ったから。彼女は自分でも驚いたようだった。たぶん言うつもりがなかった言葉だったのだろう。 なんて返事をしたかは意図的に忘れた。ともかくおれたちは急速に近づいて、恋人同士といわないまでもそれなりの仲になっていた。 おれは彼女への詞を書いた。不思議な関係は言葉にするのが難しく、書いても書いても納得のいく歌詞にはならなかった。 「最近、君の存在が遠く感じます」 どんな辞書を引いても似つかわしい言葉が見つからない。彼女を捉えていたはずのおれはいつの間にか不安定な気分になっていた。 「ちゃんと近くにいますよ」 彼女はにこりと笑っておれの手を取った。 こんなにも近くて遠い、その暖かさは確かに愛だった。 この儚さをしっかり捉えるためにまた歌詞ノートに向かい合う作業が始まる。終わればおれから伝えよう。きちんと恋人同士になりましょう、と。 - - - - - - |