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砂の果実



「なにが欲しい? まさかお金? 身体? それとも、心?」
 愛を囁くたび、お前はとても冷たい表情でひび割れるように笑みを作った。
 お前の心が欲しい。
 そういえないおれは初めてお前に手を出す。そのとき初めて、身体を手に入れることの簡単さを学んだ。転がり出してからは早かった。おれはお前に惑溺していった。金なんかいらない、出して手に入るならそれがいい。心を伴わないキスも抱擁もセックスもただただ、おればかりが懸命なだけで滑稽な行為だと思ったから、そのときは。
 キスをするたび、お前の唇はただぶつかるだけの口づけをした。
 強く抱きしめるたび、お前の細い腰には腕が余って空を抱いた。
 セックスするたび、お前のひどく脆い身体は崩れ落ちるようにシーツに沈んだ。
 届かないものはどうしても欲しくなる。おれは必死にお前を抱いた。何度も刻みつければ心さえも手に入れられる気がしたから。身体を得られておれは歓喜していた。
 腕から、指先から、おまえはするすると逃げていく。おれの愛さえはぐらかして、ひび割れるように笑う。だからおれは追うように抱く。本当に、溺れるようにお前を抱いた。手に入れた果実を誰にも奪われないよう貪るが如く。
「なにが欲しい? まさかお金? 身体? それとも、心?」
 愛だけを囁いていたあの頃に戻れるなら、どう答えていただろうか、あの問いかけに。
 そう振り返ってみてももう遅い。果実の味を知ってしまったからには戻れないのだ。

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