「じゃあ、好きにしてもいいよ」 生意気なことをいう口をさっさと塞いでベッドに押し倒してしまう。精巧なマネキンみたいな女は抵抗するフリだけしてされるがまま。しなやかな腕がオレの首に絡んでキスを激しくする。唾液の音、吐息、ぞくぞくした。それからほとんど愛撫らしいことはせず性急に性器を捻じ込んだ。「っ、」女は少しだけ眉をひそめてそれを受け入れる。たぶん痛かったと思う。でも彼女はそれを感じさせない官能的な表情で唇を舐めた。ぬるりと粘着質な気持ち良さにオレは声を出しそうになる。「は、っあ……」女は悦楽の声を上げた。これが欲しかった。よがる処を探して腰を緩く動かす。弓なりにしなる細い身体、腰を掴んで逃がさない。 「あ、そこ……」 身体と同じように細い声が告げる。素直な女は好きだ。 「ココか?」 ピンポイントで突いたら泣きそうな顔になった。だけどオレはきちんと知っている。これは快楽に歪む顔だと。これが欲しかったから。歪む声、表情、うねる熱、全てがいまはオレのもの。オレだけのもの。オレしか見てない。オレだけの。 「も、だめ、あっ」 達したことを教える高い声に応じるようにオレも射精する。弾ける汗、じとりと触れ合う皮膚、吐息。オレだけのもの。キスを求めて顔を近づけると彼女は難なく応えた。オレだけのもの。いまは。いまだけは。 裸で置かれていた金を財布にしまいながら女は大きく息をついた。 「今日は?」 「ん?」 「何人目だった、オレ」 オレの質問に一度首をかしげて「初めて」と答えた。どうしてそんなことを訊くんだろう、という顔つきだった。 「この後は?」 「どーでもいいじゃん」 全然どうでもよくない、オレにとっては。 金を支払った分はきちんとオレのものになってくれるのに、終わると急に素っ気ない。たぶん、それが彼女の正しい在り方なんだと思う。ただ、オレがそれに耐えられないだけで。 ネットかなにかで男と出会って金を受け取って束の間の恋を提供する。インスタントな快楽を得たい男たちにはうってつけの女。最初はオレもそうだった。それなのに、いつの間にか。 「また呼ぶ」 「うん」 「安くならねぇかなぁ」 「バカ?」 いくら払えば永遠にオレのものになってくれる? そうやって訊く勇気がなくて、正反対の言葉を投げかける。オレには金があっても勇気がなかった。 「じゃね」 「シャワー、浴びていけば?」 「ううん、帰りたいから」 「そっか」 「うん、ありがと」 「またな」 「またね」 どんなに金を出しても愛してるの言葉だけは買えない。オレのものにならないお前がどうしても欲しくて、オレはまた金を出して買い続ける。そんなことする自分の元には決して落ち着いてくれないことを知っていながら。 - - - - - - |