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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




レセプター



 兄さんはわたしにアニキと呼ばれるのを嫌った。賢い妹を思い出すからだそうだ。だからわたしは兄さんを兄さんと呼ぶ。わたしは愚かで、救いようのない馬鹿なので。
 それでも先に手を出したのは兄さんの方だった。年甲斐もなくぬいぐるみが並んだわたしのベッドにぎしりと侵入して、試すようにキスをした。あの夜のことは仔細に覚えている。なにしろ、全てが初めてだったから。恋人みたいに指を絡めて、大人のキスをした。その後はお察しの通り、兄妹がすべきでないことを一通りした。
 賢い妹は、何が行われているか薄々気づいているようだった。わたしのことをアネキと呼ばないのがその証左だろう。
「今日帰ってこないんだって」
 わたしは紅茶を兄さんに淹れながらそう言った。誰が、とは言わない。言わなくても通じる。兄さんはわたしが席につこうとした途端硬いテーブルに押し倒した。頭をぶつける。痛かった。
「じゃあなにも遠慮する必要ないですね」
 兄さんは笑った。それから薄い唇が降ってきて、キスをした。子供のキスじゃない。唇を食んで、舌を絡ませて、お互いの唾液でぐしゃぐしゃになってしまう大人のキス。これ、大好き。呼吸もままならないくらい激しい口づけの嵐、もう喘いでいるわたし、カップの倒れる音。別の生き物みたいに咥内を侵す兄さんの舌が気持ちいい。
 兄さんはさりげなくわたしのスカートのなかに手を入れた。何度繰り返しても恥ずかしいものは恥ずかしい。だって、キスだけでおかしいくらい濡れてしまっているから。もう頭をぶつけたことなんて気にしてない。それより兄さんの細い指が犯してくれることを期待していた。
「っあ、兄さん、」
 切ない声で呼ぶと、兄さんの暗い目は意地悪そうに光る。この瞬間がぞくぞくして、たまらない。兄さんはきちんと、妹としてわたしを愛しているようだった。
 ゆっくり細い指が差し込まれて、わたしはテーブルの上で仰反る。溢れた紅茶がブラウスを侵食した。そういえばわたしたち、服も脱いでない。わたしは震える手でブラウスのボタンを外す。なんとなく、最低限の礼儀な気がした。ぬるり、兄さんの舌が腹を這う。「あっ」甲高い声が出た。可愛いですよ、と兄さんは言った。また恥ずかしくなって両手で口を覆う。
 兄さんもシャツを乱暴に脱ぎ捨てて、薄い身体でわたしを覆う。鼓動が伝わった。
 お互いの髪が絡まり合う。似た髪質、似た髪色、抗えない血の事実。兄さんの暗い目とわたしの暗い目はよく似ている。
 倫理も道徳もどうでもよかった。兄さんがいれば、それだけでいい。
 熱いものが挿入されて、わたしは必死で喘ぐ。兄さんはわたしの弱いところをすっかり知っているので容赦なく腰を動かして苛めてくれた。
「やあっ、激し、っ、兄さ、ん」
 兄さんと呼ぶたびにそれは激しくなって、体液の交わる音が一層大きくなる。大して広くもない部屋は、卑猥な音でいっぱいになった。
 乱雑な音、兄さんの体温、それから、紅茶の匂い。日常的な非日常が余計にふたりを駆り立てた。
「ん、」
 兄さんは絶頂が近くなると目を細める。そして小さい声を上げて腰の動きを強めた。
「に、いさ、あっ、兄さんっ、きもち、い」
「っは、おれ、イキそうです」
「わたし、も」
 恋人繋ぎの指に力が入る。わたしが大きく喘ぐと、兄さんはお腹の中に射精した。温かくて、気持ちがいい。ぐちゃり、性器が引き抜かれて、わたしは息を整える。
「兄さん」
 首を傾げて呼んでみれば、優しいキスをくれた。
 わたしを見つめる瞳は、お揃いの翡翠。わざわざ買い揃えなくたって、わたしたちはお揃いをたくさん持っている。
「ブラウスが染みになってしまいますね」
 今更そんな心配をするのがおかしくて、笑ってしまう。そんなこと、どうでもいいのに。
「ねえ」
 兄さんの首にゆっくり腕を回して
「もう一回したいな」
 あざといくらいのおねだりをしてみた。
 しょうがないですね、と兄さんは応える。その表情が満更でもないことは、妹ならすぐわかる。
「お前は本当に――」
 兄さんの言葉が終わらないうちに、玄関から予期せぬ声が聴こえた。
「ただいま。約束の日、今日やなかった」
 賢い妹の声だった。ワンクッションなしでわたしたちの部屋のドアが開けられる。ぱたり、スマホを落とす音。
「おかえり」
 わたしは兄さんに抱きついたまま挨拶する。もちろん、可愛い妹のために笑顔で。
 チッと舌打ちが聞こえた。マリィはそのまま踵を返して、これ以上ないほど大きな音でドアを閉めた。わたしたちを非難するように。
「困りましたね」
 ちっとも困ってなさそうな顔で兄さんは言った。
「どうします?」
 わたしに委ねられるこの後の展開。そんなの決まってる。
「もう一回、しよ?」
 なにも怖いものなんてない。兄妹だからってセックスしちゃいけないわけじゃない。なにより、わたしをこうしてしまったのは兄さんだ。
 わたしの返事なんて分かりきっていた兄さんは額にキスをくれた。恋人繋ぎにまた力が入る。
「声は小さくしてくださいね」
 そんなの約束できるかわからない。愚かで、馬鹿な妹だから。同じように愚かな兄さんは、お揃いの目で笑った。

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