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ゴシカロイド



 あたしあなたが大好き。
 あたしが人形を抱いていた頃から、あなたの笑顔はずっと変わらない。爽やかに笑って頭を撫でてくれる。なにもできないあたしを抱き締めてオレはキミが好きだよと囁いてくれた。あたしも好き、好き、大好き、ダンデがこの世でいちばん好き。どんなに有名人になっても、あなたのいちばん近くにいるのはあたしなの。黒いドレス、可愛いねって褒めてくれたからそればかり増えていく。ダンデが道に迷うならあたしが地図になればいい。どこに迷ってたって、あたしがいちばんに飛んで行くからね。だからあなたはキラキラした目であたしを見ていて。
 それなのに。
 あなたの隣にいる、知らない女のひとはだあれ?
 どうしてそんな切なそうな表情をしているの?
 あなた、だあれ?
 いま眼の前にいるダンデはダンデじゃなくて、知らない男のひと。ダンデによく似た、でもダンデが考えないような下卑たことを考えてしまう男のひとだ。赤い口紅に引っかかる男はいつだって大馬鹿。あたしのダンデは馬鹿じゃない。
 ねえ、ダンデのフリをしたあなたはだあれ?
 その夜あたしは久しぶりにぬいぐるみを抱いて寝た。ダンデが昔そうしてくれていたように。
「今日のドレスも可愛いな」
 朝、大急ぎでどこかに向かいながらあなたはあたしを褒めた。あたしはドレスの裾をキュッと握って微笑みで返す。あなたが褒めてくれたから、ああ間違えた、本当のダンデが褒めてくれたからそればかり着てるの、知らないでしょう。
 あたしなにもできないけど、ようやくやりたいことができたの。あなたのおかげよ、知らない男のひと。
 ねえあなたはどんな顔であたしを見るのかな。あたしの名前を呼ぶかな。
 明日の今ごろ、たぶんあたしは新聞テレビスマホいろんな画面に登場してるのよ。ダンデと同じくらい有名になるかもしれない。明後日には少女Aと呼ばれてなにかの専門家があたしについて議論を交わすのよ。ニュースに使われる写真はあたしが選びたいな。普通の少女だったといわれたいから。
「ッ……!」
 胸元に刺したナイフ、腕を伝うジャムみたいな血。えぐるように腕を動かせば、信じられない、という顔でダンデのフリした男はあたしを見つめる。ううん、この目はダンデだ。キラキラしたあたしのヒーローの目。最期に、名前は呼んでくれなかったな。少女Aになる前に、あたしでありたかったのだけど。
 ねえあなたが褒めてくれた黒いドレスがあなたの血を吸うよ。可愛い? 似合ってる? あたしのこと、好き?

 
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