×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




エクストリーム・マシーン



 いつだってそうだ。おれとセラピストとの会話は意味がないし、主治医に処方される錠剤では足りない。錠剤の隅の隅まで身体に溶かしても足りない。爪を噛みながら君が家に来るのを待つ。明けない夜の裏側ですやすや眠る君を待っている。朝になれば怖いけれど、君が来てくれるのは嬉しい。足りないのは本当は君なんだ、と足掻くおれ。爪を噛むのは落ち着かない証左。朝になれば両手がボロボロになっているはず。君はそれをみて息を飲むんだ。またやったんだ、と。おれは賢いから君のせいにはしない。ただちょっとね、とぼそりと呟くだけ。本当は明けない夜に君に会いたかったのに。
 おれの身体と精神を正しく理解している主治医にも分からないのは君という存在。どうして君を求めるかって、それは君が君だから。おれは君がくれば爪を噛む代わりに綺麗な身体に噛み跡をつける。ひとよりちょっと尖った歯だから君は痛がる。仰け反る青白い喉。罪深いおれ。贖う暇なんてないくらい君を求める。ネズ、と差し出された手を振り払って無我夢中になる。水たまりみたいな君の身体に沈んで、ようやくおれは安心するんだ。窓の外、昼の月が照らさないふたり。皮膚を波立たせるおれと君はきっと身体に悪いことをしている。だけど君じゃないと駄目なんだ、駄目なんです、どうしても。君というタイトロープを踏み外せば真っ逆さま、坩堝に落ちておれはおれでなくなる。俗世間に飲まれて、おれが消えてなくなる。
 君は差し出す手を止めないで。異端であってくれ、おれのために。

- - - - - -