「生きてますか?」 昨日のあれのせいで彼女は疲れ切っているらしい、ぴくりとも動かない。頬を叩いても髪を引っ張っても起きてくれない。髪を引っ張ったら呻くような声を出したから生きてるには違いないのだが。 「おはよう。もうお昼ですけど」 普通の恋人同士がそうするように頬に口づけて囁く。 「ネズさん……、」 いたい、と彼女が応えた。 ああ、そうか。昨日が初めてだったのか。思い出して嬉しくなる。血の臭い、震える躯、涙が溜まった瞳。ぞくぞくした。 「どこが痛いですか?」 「腰とか……あと、胸の辺り」 「え?」 ゆっくりと服を捲って胸元を露わにした。たくさんの蚯蚓腫れや噛み跡がそこにはあった。 ぎこちなく躯を起こした彼女を抱き締めて、傷に指を這わせた。 「痛そうですね」 「いたいです」 「これ、おれが?」 「……ネズさんが」 「そうでしたか。おれ、なにをしてました?」 「可愛い可愛いって言って、噛んだりひっかいたり」 「そうですね、お前は可愛い」 白い肌に浮かぶ傷が痛々しくも艶めかしい。これが見られるおれは幸せ者なんだろう。あまつさえ、これが自分でつけた痕なら尚更。 触れるだけの口づけを何度も繰り返して、おれたちは躯を離した。ああ、昨晩のおれが羨ましい。彼女は泣いたんだろうか、悦んだんだろうか。痛いのが嬉しいという変わった子ではないから、きっと泣いてしまったに違いない。 「これ、痕残りますね」 「うん……」 「嫌ですよね、女の子だし」 「いや、じゃ、ないです。だって、ネズさんがつけた痕だから」 「……そんなにおれが好きなんだ」 からかい半分にそう言ってみる。すると怒ったように「意地悪」。可愛い、面白い。ころころ変わる表情が楽しい。人間は嫌いだけれど、こういうところを見るとやっぱり生きてる人間も楽しいと思う。 - - - - - - |