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LIPS



「今月は事故が多いんだってさ」呟く。
 何気ない会話を予測して口を開いたのに、沈黙。
 月明かりだけに頼った室内にはわたしとダンデだけ。ソファーに二人、離れて座っている。わたしは脚を組んで、彼は煙草を吸って。
「へぇ、そうか」
 脚を組み替えてちらりと彼を眺め見たときに、そう言葉が返ってきた。もちろん会話は発展しない。
 煙草臭い。最悪。服に臭いがついちゃう。
 放置していた左手に体重をかけて、ダンデの方に身体を向ける。「臭い、嫌なんだけど」、文句を付けたら「気にするな」。ふざけてる。腹が立って思い切り顔を逸らしてやった。するとわたしの左手にダンデの右手が重なる。
 「ちょっと」
 振り返って、狭まったわたしたちの距離に驚く。顔が近い、もう鼻と鼻なんか殆ど触れあっている状態。中途半端に首を上げているから怠い。睫毛を震わせるダンデの表情は、なにを考えているのか読めない。キスするみたいに顔を寄せて、わたしからおねだりを引き出そうとする彼はとても狡い。
「ね、ダンデ」
「ん?」
「キスして」
 素直にそう言ったら彼はすぐにキスをしてくれる。煙草臭いキスは少し嫌だけど、ダンデの唇は好きだ。「もっとして」と文句を言えば器用にわたしの舌を誘い出してぐちゃぐちゃに乱してしまう。やっぱりわたしたちにはこっちの方がいいみたいだ。まともな会話なんて久しくしていない。やり方も忘れた。
 いつのまにか服を全て脱がされたわたしはもう会話を成り立たせることすら考えていない。意味のない喘ぎに混じって彼の名を呼ぶけれど、月の光に砕かれる。ダンデが何を囁いているのか分からない。まともな会話じゃないことは分かるけれど。
 声が身体にまとわりつく。もう何も考えられなくなる。
「っ、キスして」
 そうしてまたキスが落とされた。
 皆のヒーローのこんな一面を知っているのはわたしだけ。言葉少なく、身体を求めるだけの野獣。月の光に照らされるこの姿が本当の彼。
 何度もキスをするわたしたち。このキスがないとわたしの身体は流れて、消えてしまう。どんなに乱雑でもあなたはわたしの総て。ねえ、キスをもっとたくさんちょうだい。普通の会話なんて求めないから。いつまでもこうしていて。

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