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呼吸と瞬き


 長い睫毛、形の良い唇。細い指、細い腕、細い脚。小さな爪、小さな掌。
 彼女を構成する全てが愛しい。同じ人間なのに、どうしてこうも違うのだろう。
 彼女の名を呼んでも返事は無かった。どうやら眠り込んでしまったらしい。おれの本を枕代わりにして幸せそうに眠っている。
 寝ている姿というものはまるで無防備だ。隣りに腰を下ろし、読みかけの本を手に取る。読書に集中するつもりなど全く無い。これは言い訳のようなもので、言い換えれば気を紛らわせるためのものでもある。普段なら本をそんな風に扱うなど言語道断なのだが。
「……君は本当に無邪気ですね」
 おれの心を乱していることも知らずに、どんな夢を見ているのだろう。
 色の良い唇にそっと触れる。それだけでおれの衝動が収束する筈も無いのに。
 長い睫毛、形の良い唇。細い指、細い腕、細い脚。小さな爪、小さな掌。
 全てに触れたい、全てに唇を落としたい。想像して、ぞっとする。おれの側で眠っているのは、友人の兄だというただひとつの理由に依っているのに。
 唾を飲む音がやけに耳に響いた。


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