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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




無常



「あいつ、帰りましたか?」
 ネズは肩を鳴らしながらオレに問いかけた。楽屋、オレとネズ以外は誰もいなかった。
「帰したよ」
 久しぶりのネズのライブは爆発していた。世界を燃やす歌を叫び、喚き、そして燃え尽きた。いま古ぼけたパイプ椅子に座るネズの顔色は死人みたいだった。
「で、話とはなんですか」
「いいのか? いまで」
「どういう意味です」
「いや、単純にオマエ疲れてねぇのかなって」
「そんなこと気にするキャラじゃないでしょう」
 同じようにボロいパイプ椅子に座ることを手で勧められたが、断った。まともに目を合わせる自信がなかったから。
「まぁ、いいです」
 ネズはゆっくり足を組んだ。蹴ったら折れそうな細い脚。これでさっきまでステージを走り回っていたとは思えないほど、頼りない。
「オマエさ、」
 アイツのことで話をしたいといったのはオレなのに、上手く言葉が出てこない。そもそも、オレはなにを話すつもりだった?
「……オマエ、アイツのなんなの?」
「わかりません。それはおれが決めることじゃないので」
 ぴしゃりと閉め切られた返事に、またオレは窮する。ネズの表情は相変わらず読めない。
「お前があれをどう思っているのかは知りませんが、おれは関係ないですから」
「ふつう、キレるんじゃねぇの?」
「なににですか」
「写真、撮ったこと」
「ああ、」
 そのことでしたか、とネズは幽かに笑う。
「正直いって、お前を許せないという気持ちはありません。……ただ、あれの泣き顔が頭から離れないだけです」
 そして眉を顰めた。
「今日のあいつは全然楽しそうじゃなくて、それもひっかかりました。3ヶ月ぶりなのに。分かりますか? 分からないでしょうね。おれはいつもあいつを見てきましたから。あいつは、ネズが好きなんです。ステージ上のネズが」
 オレなんていないように、ネズは喋り始めた。
「歌っているネズが好きなんですよ。ただ。あいつはステージを降りたおれには然程興味ないんです。ネズの名残を味わうためにセックスするだけで。おれのことなんか、見ていないんです。ただニコニコして、感情が分からない。分からないんです、あいつの考えていることが。だから、」
 息継ぎ。
「あいつの泣き顔を見たお前が憎らしい。それだけです」
 予想外の台詞にオレは呆気にとられる。ネズは僅かに動揺しているようだった。
「おれはあいつの笑顔以外、見たことがないんです。全部ネズに対する笑顔で、おれに向けられたものなんてないんですよ」
 洪水のようにネズは吐き出す。
「おれはお前が嫌いです。どうしてあいつはお前なんかに、」
 優越感に背筋が粟立った。初めて、ネズより優位に立てた気がした。
「驚いた。オマエ、マジじゃん」
 からかうようにそう言ってみた。
「そうなんですかね。じゃあそれでいいです。たぶん――おれはあいつのことが好きなんです」
 そう呟いたネズの表情は、また読めなかった。
 アイツ、オマエに愛されたがってるぜ。
 意地悪なオレはその言葉を飲み込んだ。
 
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