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キスしてテディ



 疲れた、と言った。
 母から急に振られた仕事。雑誌のインタビューで終日くっつき回られるなんて聞いていなかった。朝からバタバタと走り回っていればいつの間にか外は真っ暗。ようやく解放されたマクワは息も絶え絶えに疲れた、と溢した。
「お疲れ様でーす」
 だが微笑む彼女を見れば、疲労感などは何処かへ飛んでゆく。現金な自分の身体に呆れつつ、マクワは彼女が淹れた茶を口にした。彼女はただの事務所スタッフで、ただの恋しい人。
「ほんとに、つかれました」
 嘘ではない。
 優しい彼女はくすりと笑った。この笑顔に毎日癒される。
「私が魔法でも使えたら、マクワさんを癒やしてあげるのに」
「……まあ、あなたの笑顔に癒されてますけどね」
 からかい口調で返事をした。
 彼女と話していると、どうもうまくいかない。ずれてしまうのだ。原因は心拍数のせいだと分かっているのだけど。恋しているのだ、年相応に。
「いくらでも笑ってあげますよ、そんなのでいいのなら」
 マクワの柔らかい髪をおもちゃみたいに弄りながら彼女は応えた。母にされるとうざったい仕草も、彼女なら別だ。耳の辺りがドキドキする。
「満足はしません」
 そのドキドキはマクワを大胆にさせた。
「え?」
「一つお願いがあります」
「は、はい」
 前髪を弄う手を払いのけ、ソファーから立ち上がって彼女に近づく。あからさまに慌てて、逃げようとした。予想外の反応だったが何も言わずに両手を広げてみせる。抱き締めて下さい、と。
 困ったような表情の後、彼女は頬笑む。
「……しょうがないですねぇ」
 ふわりと体温が重なった。
 彼女は身体が小さい。肩が華奢だ。
 背中に回された手に力が込められたのが分かる。
 柔らかい抱擁だった。抱き締める、という感じではない。包みこむ──と表現した方が、自然である。暖かさが、直に伝わる。
「ああ、これは駄目です」
 ぎゅっと強く抱きすくめる。腕におさまる彼女も力を強めた。勝負をしている訳でもないのに。
「余計、ドキドキして、疲れてしまう」
 マクワの胸から顔を上げ、また、困ったような顔をする。
 ああ、心地よい。彼は幸福感に浸る。彼女のキラキラした瞳に癒された。目と目でドキドキが通じ合う。それはまた、彼を大胆にさせた。
「あなたが好きです」
 ふふ、と笑いで誤魔化して、マクワは彼女の額に接吻をした。


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