ねぇ、私はいつも不安なんだよ。
色々なことに興味深々で自分でも気がついていないんだろう?君の無意識な行動がどれだけ周りを君に夢中にさせていることか。例えば、私とかね。周りの人間も含めてどれだけ君のことが好きか、知らないでしょ?
「分かるよ。こんだけいつも言われてりゃあな」
私の腕の中にすっぽり収まった晴矢は何気もなく答えた。晴矢は一度熱中しだすとやり遂げるまで止められないタイプだから、先程から文庫本から顔を上げない。
文庫本とか意外すぎるよ。似合わない。でも可愛い。くそ。
構ってもらえなくてつまらなかったから後ろから抱きしめてみたのだけれど、相変わらずの反応だった。少し前までこんなことしたら顔真っ赤にして悪態吐いてたのに、だ。これは一体どうしたことか。
「晴矢は言ってくれないね」
「何を」
「私がいつも言ってること」
「…言わなくても分かんだろー」
よいしょ、と脇に手を差し込んで軽々と持ち上げて膝の上に晴矢を乗せてやる。すると驚いた顔をしたけど、はあ、とため息をついて文庫本を閉じた。む、なんだその聞き分けのないような子どもを見るような顔は。
「晴矢から直接聞きたいじゃない」
「今更だろ…」
晴矢が他の誰かに連れ去られてしまいそうで、とられてしまいそうで、怖い。
どれだけ「好き」を伝えても、いつか遠くへ行ってしまうんじゃないかって、
怖い。
抱きしめる腕に力を込めると、晴矢は何かを言いかけて、口を閉じた。そして、
「アホ」
と言って、私の額に鈍い痛みが――
「…はるや、君のデコピン痛い」
「風介がアホだからだ。バカ。まぬけ」
「………」
頭は悪くない方である。
するととてもとても、珍しいことに晴矢が私の首に腕を回して、抱きついてきた。
「…好き」
「………うん」
「好きだから…」
ごめんね、困らせちゃったね。
額に唇を落とせばくすぐったそうに笑って、ちゃんとここにしろ、って唇を突き出してきたから私も少し笑った。
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