過去構造
蝉の盛大な鳴き声が鬱陶しい。
じわりと汗ばむ背中が気持ち悪い。
これだから夏は嫌いだ。
この季節になると、思い出しなくもないのに思い出してしまう忌まわしい記憶が無理矢理蘇る。
弱くて、無力な私が。
幼い頃の記憶といえば、殴られたり蹴られたりしたものしかない。私は望まれずに産まれた。父には殴られ母には煙草の火を押し付けられ、私がどんなに叫んで泣き喚いても両親は無視を続けた。私はただ泣くことしか出来なかった。
結果的に私は捨てられ、孤児院行きとなったわけだが、私にとって両親と呼ぶべきであろうあの2人の人間は今、どうしているのだろう、なんて考えたくもない。
私が今も生活しているおひさま園の園児たちは皆、似たような境遇であった。親のいない子どもたち、親の愛を知らない子どもたち。一時期エイリア石の力によって地球を侵略しようと企てていたときもあったがそれはもう過去の話だ。あの事件のあと腐れ縁である南雲とともに韓国代表としてFFIに出場したり、普通の中学生として生活している。
「暑い………」
なんで私が南雲のぶんまでジュースを買ってやらなければならないのだ。じゃんけんで負けたのは事実だが。
この猛暑のなか、やっと自販機に辿り着きオレンジジュースとサイダーを購入。さっさと帰って涼もう。
ミーンミーン、
ジワジワジワ
ああ、うるさい、鬱陶しい
「………兄さん…?…」
手から滑り落ちたサイダーがシュワシュワと音をたてる。
すまん南雲、キャップを捻ったら中身が飛び散ってしまう。気をつけろ。
私の後ろから伸びるもう一つの影を眺めながらぼうっと思った。
続く
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