突然だった。目の前の男が言った言葉が理解出来なくて、言ってやった。
「気が狂ったか」
思い切り変なものを見るような目で見てやった。身長は向こうのが高いから見上げる形になるのだけれども、本当に思ったのだ。コイツは気が狂ったのかと。
「オレは正気だ」
「そうかい。ならアンタは間違いなく頭がヤられちまってるぜ、何処かの雑魚にやられたか、うん」
確かにコイツは言ったのだ。
戦う意味なんて、ない。殺し合いなんて愚かなことだ、と。オイラに言ったのだ。何故よりによってオイラなんだか。そんなの目の前のどうやら頭がヤられちまった可哀想なうちはのエリートに聞いてくれ。
コイツのことは気に食わない。別に逆恨みとかそんなんじゃなくて。まぁ初めて会ったときのことは少し根に持ってるけど。
コイツは口に出さない。
自分で考えを持っている癖に、絶対に口に出さないのだ。寡黙ぶって、クール狙ってんのかこの野郎。一度、言ってやったことがある。言いたいことがあるなら言いやがれ、と。するとコイツは驚いていた。よく分かったな、と言った。なめてんのか。
後にサソリの旦那に言われた。「イタチが何か考えてるなんて、よく分かったな。アイツ何考えてんのか分かんねえし」と。
それはただサソリの旦那が人間の表情とか人間そのものに興味を示さないからだろ、と言ったが、コイツは自分の思いを口に出したことがない。
そんな奴が突然だ。突然オイラにそう言ってきやがったのだ。戦うことが虚しいやら、無意味やら。そんなこと知らねえよ。てかオイラに言うな。そんなのアンタの相方の人間離れした人間に言ってくれ。
「お前に言いたかったんだ」
「意味分かんねえ」
「お前は若い」
「そりゃどうも。あんま歳離れてねーだろ、うん」
「オレはあまり長くは生きられない」
「…オイラだって、」
「どうして、お前のような奴がこんな暗く虚しい世界に入ってしまったのだ」
そう言って、伏し目がちなイタチの長い睫毛は何故か涙で濡れているような気がした。
「…そんなこと」
朱の世界オイラも知らないよ。
オイラだって知りたいさ。
title:@.HERTZ