いや、分かってる。
サソリの旦那に感情なんてものがないことくらいオイラには分かっている。
でも。やっぱり。
好きな人が何も感じない、思わない、感じられない、思えないっていうのは辛い。
サソリの旦那を好きになったときからこれは覚悟しなくてはならないことだ。
オイラの知ってるサソリの旦那は既に傀儡人形で無表情だった。そんな旦那を好きになったんだ、オイラもイカれてる。うん。
「デイダラ」
名前を呼ばれ振り返るとサソリの旦那。
相変わらずの無表情。くそ、綺麗な顔だなこの野郎。
「明日の任務の打ち合わせだ」
「うん、分かった」
明日もいつもと変わらない暗殺任務。
旦那と組んでこれでも結構たつから大体連携も覚えてるしわざわざ打ち合わせなんてしなくてもいいんだけど。
少しでも一緒にいたいから黙ってる。
面倒なこととか時間のかかることが大嫌いなサソリの旦那だからオイラがそう言えば喜んで去ってしまうだろうから、さ。これくらいいいだろ。
思えばそうだ。
サソリの旦那は面倒なこと、大嫌い。
オイラに時間を当てるなんて面倒なこと嫌いな筈なんだ。出会った頃はそうだった。その頃はオイラもサソリの旦那のこと、面倒臭い頑固親父なんて思ってたっけ。
いつからだろう。連携も体で覚えてしまって、戦闘中に何も言わなくても相手のことが分かってお互いに上手く戦えるようになったのは。
「おい、聞いてんのか」
「あっ…悪い、うん」
「ったく…もう一回言うぞ。もう次は無いからな」
ああ。そっか。
サソリの旦那、こういう風に、もう一回繰り返してくれたりするような優しい人じゃない。いや優しいっていうか当然のことかもしれないけど。うん。
サソリの旦那は、優しい。
「…何笑ってんだ」
「うん?笑ってないぞ!」
「気味悪いなこの野郎」
感情が無い傀儡だって、そんなことオイラが知ったことじゃない。
オイラがサソリの旦那を好きでいればいいんだ。
お題 メロウ