レンタル彼氏 | ナノ

Choromatsu Matsuno

「どうも、初めまして。松野チョロ松です」
「初めまして。名前です」
「あなたのことは兄弟から聞いてます。今日は一日よろしく」
「はい」
「敬語使わなくてもいいですよ」
「えーっと、うん、そうだね」

 松野チョロ松くん。あのチラシが兄弟順で並んでいるならば三男ということになるわけだけど、はたしてこれはビンゴなのか。口に出して問うてみた。「え?よくわかったね。正解だよ、僕は三男なんです」と彼。敬語だったりフランクだったりする口調は耳触りが良いことからどうやら私は嫌いじゃないらしい。

「名前さん」
「はい?」
「僕は何番目にレンタルされたんですか?」
「え?ええと、3番目です」
「なんで僕だったんです?」

 難しい質問がきた。おそ松くんは顔写真が一番最初にあったからという理由で選んだし、一松くんは路地裏では出会ったから選んだ。でも特になにも考えずにチョロ松くんを選んだのかと言われればそうでもないわけで。つまるところ、私にもわからない。

「ごめんなさい、自分でもわからないんです」
「ははっ、なんですかそれ」

 不快だったかな、と不安に思ったが特に気に留めた様子はないらしい。笑った顔はやはりどことなくおそ松くんと似ている。六つ子だから当たり前か。
 どこにいく?と優しげな瞳で見つめられる。とっさに声が出ず、案もなかったので黙りこくっていると心配そうな声がかかってきた。

「だ、大丈夫?」
「うん、あの、チョロ松くんは行きたいところ、ない?」
「僕?」
「うん」
「そうだなあ、僕はあなたとならどこでもいいよ」
「……えっと」

 困った。こんな直球で言われてしまっては照れざるを得なくなる。しかもこの人無自覚で甘い言葉を吐くからかなり厄介だ。なんでこんなにレンタル彼氏というのはパーソナルスペースが狭いんだろうか。そんなに耐性あるわけじゃないからやめてほしいことこの上ない。

「ほ、本屋行かない?!ゲーセンでもいいよ!」
「本屋?……ゲーセン?」
「あっ、あれ、嫌だった!?」
「(何この子……、ゲーセンとか行くの!?意外すぎる!好き!)」
「ご、ごめんね……?」
「あ!いや!いいよ、全然いい!行こう」
「う、うん!」

 よかった。いきなりゲーセンとか嫌だったかな、と不安になってしまった。ちらりと横目で見てみれば彼は先程よりも断然と表情が明るくなっていた。好きなのかな、ゲームとか。なら提案して正解だった。

「ゲームとか好きなの?」
「え?あ、うん。それなりにやるよ!」
「ゆ、UFOキャッチャーとか得意だったりしない?」
「うーん、人並みだと思う」
「そっかあ、欲しいぬいぐるみがあったんだけどね……」
「僕でよければチャレンジするけど」
「本当!?」

 何度挑戦しても全然とれなくて困っていたところだったから、とってもらえるならばありがたい。とれなかったらとれなかったで全然大丈夫だし、とれたら嬉しいしで私にとっては一石二鳥だ。


「……す、すごい」
「あはは、たまたまだよ」

 他に欲しいものあったらいってよ。今日は調子がいいみたい。
 笑顔で言う彼と、手に大きなぬいぐるみを持つ私。人並みだよ、と言った彼は私が何度苦戦したかわからないぬいぐるみを一回で取ってしまった。

「図々しいのを承知でお願いしてもいいですか」
「うん、いいよ」
「このぬいぐるみの色違いも取ってもらえませんか!?」
「了解。取れるかわからないけど」


「……プロかなにかですか?」
「え、そんなわけないでしょ!」
「すごすぎるよ……!」

 一回とはいかなかったものの、三回程度で同じく色違いのぬいぐるみを取ってみせた彼はやはりすごい。素直に賞賛の拍手と言葉を贈ると照れくさそうに頬をかいていた。

「本当にゲーセンでよかったの?」
「うん、好きだよ」
「なんか、意外だよ」
「えぇ、そう?」
「でも、僕もゲームは好きだし楽しいよ」
「……ねえねえ」
「うん?」
「プリクラ撮ろう!」
「え!?」

 プリクラ?なんてぎこちない声で聞いてくるチョロ松くん。こういうのは慣れてないのかな、と思った私は悪戯をしてみたくなってしまって。

「……緊張してる?」
「へ?」
「プリクラ、撮ったことないの?」
「え、ええと、いや、その……」
「……ダメ?」

 我ながら、卑怯だなと感じつつ記念は残しておきたいわけで。強引だとはわかっていながら手を引っ張ってプリクラのあるブースへ移動する。握った手の先から緊張が伝わってきて、写真を撮るときには2人で真っ赤になってしまってプリントされたときに2人で顔を見合わせて笑った。


 その後、本屋では彼の好きなアイドルのことを知れたり、実はツッコミ肌だということがわかったりとても楽しかった。そんなこんなでレンタル時間はあっという間に過ぎて行って。


「今日はありがとう」
「こちらこそ。楽しかったです。またよろしく」

 後ろ髪引かれる思いを感じながら、彼に背を向ける。歩きながら、次は誰を指名しようかなあ。なにとなしに考えて、ああ、もう私って気が早いなって苦笑いが漏れた。


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