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ロマンはどこにだって溢れている


 カタリ。小さな物音にでさえも心臓が跳ねるほど驚いてしまうような状況で、おそ松は一体何をしたがっているのだろうか。時折こちらを見てニヤリと笑うだけで肝心なことは何も喋ろうとしない彼に苛立ちを覚えながら、夜の道を進む。おそ松の手には大きな袋があって、それを抱えたまま変わらず楽しそうに歩いている。この道には若干覚えがあって、もう数年も前になるけど毎日通っていた道だ。……そう、たぶんおそ松は赤塚高校へ行こうとしてるような、そんな予感がする。出来れば当たらないでほしい予感。


 予感は的中した。ついたー!なんて小さな声で嬉しそうな声で話しかけてくるおそ松を無視しつつ、私は赤塚高校を目の前にして懐かしさを感じた。毎日ここに通っていたことが、フラッシュバックしてくる。おそ松たち六つ子とは小学生来の付き合いで、高校も一緒だったわけだけど、毎日なにかと事件に巻き込まれては先生から逃げたり謝ったり大変だった。あの頃からもうずっとおそ松が好きで、やっと付き合えるようになった日は眠れなかったのを覚えている。

「な、名前、これに着替えてよ」
「え?その中身なんなの?」
「セーラー服」
「は?!」

 ガサガサと袋を漁りだして、取り出したのはとても懐かしい赤塚高校のセーラー服。同じくしてご丁寧に学ランまであるらしい。別に着るのはいいんだけど、ここで着替えろなんて言われたら一発ビンタを食らわせてやるレベルだ。

「不法侵入するぞ!」
「……え」

 止めるよりも早く、おそ松は裏門を上りだしていて、よっとなんて軽々しく敷地内へ入ってしまった。

「俺、抜け道知ってんだよね」
「なんで知ってるの……」

 俺らのときからあるやつなんだぜ、直されてたらもう知らないけど。なんてケロリと言ってのけるものだから、馬鹿らしくなっておそ松の馬鹿に付き合うことにした。

「お、名前もまだまだ鈍ってないな」
「当たり前でしょ、ニートじゃないもの」
「おい馬鹿にしてんだろ」
「してるよ」
「おい」

 同じように門をこえて、おそ松に続く。ここらへんじゃなかったかなあ、と間抜けた声で言う彼の情報の信憑性はかなり薄い。半信半疑のままおそ松の様子を眺めていると「あ、まだあったわ。誰も気づいてねーのかな」そういう声が聞こえた。

「あったの?」
「おう、ここだよ」
「入るの?」
「ったりめーだろ」
「……わかった」

 口ではいやいやながらも、実はちょっとわくわくしている。学生に戻れるなんて年を重ねてしまえば絶対にない機会なわけで。私もまだまだ子供だなあ、と思った。


「じゃあ、そこのトイレで着替えてきて」
「わかった」

 渡された制服は、ドンキなどで売っているような安物ではなくて、たぶん赤塚高校本物の制服だった。なんで持ってるんだろう?と思わなくもなかったけど、今は目の前の制服に袖を通してみたい気持ちでいっぱいだった。

「……懐かしい」

 袖を通す分、昔の体型のままでいられてるか不安だったけど無事入った。制服を着た自分を見てみるとなんだか本当に昔に戻ったみたい。懐かしい。

「名前ー、着替えたか?」
「あ、うん!」

 声をかけられ、トイレから出る。うわ、すげえ懐かしい!声が聞こえる。顔をそちらに向けると真っ赤なパーカーの上から学ランを羽織ったおそ松が立っていた。
 すごい!全然様になってる!と声をかけると恥ずかしそうにしたのち「だろ」。鼻の下をこすっていた。

 その後、私たちは自分たちがいた教室はもちろん、色んな教室を巡り歩いていた。警備員がいないのが幸いか、声も気にせず歩けて本当に学生に戻ったみたいだった。

「わ〜!!やっぱり教室変わってない!」
「すげー!俺最後の席ここだった!」
「私はここ!あ〜〜、もうだめ、なんか……」

 懐かしすぎる。テスト週間にいつも籠りっきりでいた図書室より、授業毎に呼び出された実験室より、歌よりもピアノを弾く方がメインだった音楽室よりも、どこよりも教室が懐かしくて、たくさんの思い出が詰まっている。

「な、なんで泣くの!?」
「感極まって……」
「ぷ、あはは!!」
「も、もう!笑わないでよ!」

 その後、もう朝と呼べるような時間まで思い出を語り合った。再びトイレで着替えて入ってきたところからこっそりと抜けた。夜に呼び出されたときも、今現在もおそ松が何をしたかったのかはよくわからないけど、でも楽しそうだからそれでいい。私も楽しくて彼も楽しければ、ただ、それで。

#夢松版深夜の創作真剣勝負:お題「デート」


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