Dreamy Twinkle | ナノ

あくまで私はアイドル

「いつもライブですよね?」
『違う、違うのよ!』
「え?」

 赤塚ホールでライブすることになったの!

 ……。
 …………。
 危うく携帯を落とすところだった。呆然とする中、「本当なんですか!?」と聞き返せば「この間のライブハウスでプロデューサーの目に留まったみたい!よかったわね!」と言われる。嬉しすぎて倒れそう。

『明後日のライブで告知よ!』
「はい!」

 詳しいことはあとでメールに送るから、と言われて電話を切られる。瞬間、足は彼がいる書店の方向へ向かっていた。しかし、たぶんこれは言ってはいけないような気がする。と感じた私は足を止め興奮は未だ冷めないけれど、大人しくお家に帰ることにした。


「ただいまー」

 パチっと電気をつけて荷物を置く。一人暮らしゆえの寂しさか、誰もいないとわかっていても声をかけてしまう。たぶん直らない癖の一つだ。そこはかとなく寂しさを感じながらも私は冷めぬ興奮をどうすればいいか考えながらテレビをつけて冷蔵庫へ向かう。

「はーあ、どうしよう」

 コップにお茶を注ぐ手が震えている。しがない地下街のアイドルがいきなり大きなライブに出てしまっていいんだろうか。失敗してしまったら。そう考えてしまう自分はかなり年を取ってしまったんだな。
 ピロン。携帯が鳴る。メールが届いたようだ。差出人はマネージャーさんから、ライブの詳細とかかれている。仕事が早いなあ、なんて思いながらメールを開いて眺める。
 開催場所、日付、時間など事細かくかかれたいかにもビジネスですって感じのメールをみると先程の興奮が少し冷めてしまった気がする。こういう現実感はいらない。

『了解です。明後日のライブではどのように告知すればいいですか?』
『好きなように伝えてくれればいいわ。そこはめるちゃんに任せるから』
『はい。』

 事務的な会話を続けたところで相手からの返信がこなくなったので携帯を机の上に置いて適当に紙とペンを手にとる。その場のノリで、みたいな気の利いた対応ができない不器用な人間なのでこういうことはあらかじめ用意しとくに限る。きゅぽん、と間抜けな音を聞くと彼と2回目に会った日のことを思い出す。って、いけない。今は思い出してる暇はない。どう伝えればファンの皆が喜んでくれるか、考えなくちゃ。



 翌日。未だ真っ白な紙を見て溜息をつく。昨夜からずっと考えて、無難な案は浮かぶもののイマイチピンとこない。元も子もないけれど、私はこういうことは苦手なんだと自覚をしてしまった。こんなことすらできないくせに売れると思っていた自分が恥ずかしくなる。ファンの皆には喜んでもらいたい。当たり前だ。欲を言えば癒されてもらったり、また来たいと思ってもらえるような、そんなアイドルになりたいとずっと思っている。でも、今まさに喜んでもらう手段が見つからないのだから実はアイドルは向いてないんじゃないかなんて考えが浮かんでしまって。そんな思考の海から逃げるかのように眠りについた。こういった経緯からか寝起きの気分は最悪だ。今日はなんの活動があったっけ。だるさを訴える体を無理やりに動かす。

「あれ、スケジュール帳になにもかいてない」

 まさか今日も活動がないんだろうか。不安に思ってマネージャーさんに電話をかけてみるとあっけらかんとした声で「ええ、今日も何もないわよ?言ったじゃない、覚えてないの?」なんて言われてしまった。ここのところ何かしらあったから物足りなさを感じなくもないけどせっかくの休日だ。明日は大学もライブもあるんだし気を休めておいた方がいいのかもしれない。

「じっとしてるのも、なあ」

 大人しくしていた方がいいんだろう。でも、やっぱり自分には性に合わないみたいだ。カバンを手に取りラフな格好で家を出た。行き先は、書店である。


「こんにちはー」
「おや、ひなたちゃんいらっしゃい」
「お久しぶりです」
「元気そうで何よりだよ」
「あのー、バイトの人って……」
「ん?松野くんのことかい?」
「あ、はい。その方です」
「もう少しでくると思うけどねえ」

 その後、少し店主のおじいさんと話をしているとカタンと音が鳴った。同時に「失礼します」と声が聞こえてくる。おじいさんと一緒に顔をあげると、私の見たかった姿がそこにいた。

「え、あれ、あの……」
「ひなたちゃん、ここの常連さんだよ」
「こんにちは」
「こ、ここここんにちは」

 着替えてきます、と残して私たちの前から去った彼が数分後におじいさんと同じような格好になって現れる。彼が妙に似合っているのはどうしてなんだろう。

「交替します」
「よろしくねえ」

 人の良さそうな笑顔を浮かべて松野さんが去っていった場所へ入っていく。一方彼は緊張した面持ちのままレジへ立ち、何も言わないまま固まってしまった。


「つかぬことをお聞きしますが」

 何気なく聞いた一言のはずだったのに、なぜか彼は倒れてしまった。


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