Dreamy Twinkle | ナノ

出逢ってしまう運命

 今日は一日オフで、特に何かしらの活動もない。ライブはもともと少な目だけどそれなりに活動しているわけなんですが、珍しく丸一日の許可が出た。久々にショッピングをしたり、小さい頃からずっと通っている小さな書店を覗いたり漫喫しようとウキウキ気分でお気に入りの洋服に着替えて家を出た。
 めっきり洋服を買う機会がなくなってしまったので、新しく欲しいなとAKATSUKAモールへ足を向ける。大きな建物を見るだけでウズウズとしてしまうのは昔からの癖だ。
 私はめる、なんて名前をつけられながらも割と落ち着いた色合いが好きだったりする。紺、灰色、白、黒など。スカートはロングが好きだし冬場に紺のセーターを着るのがいい。今日はまたそのコレクションを増やそうと紺のセーターを探していると、お目当てとは違う、白のロングスカートに目が行った。3断層にわかれたロングスカートは自分好みすぎて悩まずに買ってしまった。

「ありがとうございました〜!」

 なんとなくいい気分でお店を出た。今日はめるという肩書を忘れて普通の女子大生として遊びたい。忘れかけていた感覚を取り戻すような、そんな感じ。いえ、別に売れているわけじゃないので偉そうなことは何一つ言えやしませんが。

「あ……」

 いい匂い。焼きたてのパン特有のいい匂いが鼻腔を擽る。誘われるままお店に入っていって私の一番好きなクロワッサンと、メロンパンを買った。適当なベンチに座って先程買ったクロワッサンと、自販機の紅茶を手に取る。さくりと一口かじってみれば見事にいい音を立てて口の中に香ばしい風味が広がる。お昼時という空腹をパンと紅茶で満たし、私はAKATSUKAモールを後にした。


 prrrr...prrrr...
 不意に携帯から着信音が鳴り響く。慌てて取り出すと昔から付き合いがある友人からの電話だった。

『もしもし?』
「もしもし、どうしたの」
『今暇〜?』
「うん、どうしようかなって思ってた」
『たまたまそっちに戻ってるから、遊ぼうよ』
「あ、いいよ!」

 誘っておいてなんだけど、2時間くらいしか遊べないの。ごめんね。と言われるが、忙しいのは私も重々承知だ。気にしないで、と返して電話を切った。待ち合わせに指定された場所に向かって歩き出す。そこまで遠くないから待たせることもないだろうけど、なんとなく遅刻をするのは嫌だった。


「久しぶり!」
「久しぶり〜!元気そうだね」
「ひなたもね!」
「どこか行きたいところある?」
「土地勘丸きりないからひなたに任せる!」
「任せて」

 どこへ行こうかな。2時間だとカラオケくらいがいいのかな。「カラオケとかは?」と聞くと「いいね!久々にいきたい!」なんてノってくる友人に嬉しさと懐かしさを感じながら、近場のカラオケボックスに入る。たまたま空いていたらしく待たずに入ることができた。ああ、ライブハウスじゃない感覚は本当に久々だ。

「歌って歌って!」
「高校生以来だっけ?」
「だねー」

 自分の歌ではないものを友達と熱唱して、爆笑して、本当に楽しい。大学生になってからこうやってはしゃげる機会も減ってしまったから、高校生になった気分で。友人は私がめるとして活動していることを知っているので隠すこともしなくていいから本当に気楽だ。あっという間に2時間は過ぎて行ってしまう。


「あっという間だったねー」
「本当に!また遊んでよ」
「うん、もちろん!」

 今から帰らなくちゃいけないんだ、と疲れた様子で笑う彼女に、頑張ってねと言葉を投げて見送る。彼女は、大学生ではなく就職の道を選んでいるので私なんかよりも気苦労が多いんだろう。少しでも肩の荷を降ろす手伝いができていたらそれでいい。


「あ、参考書買わなきゃ」

 駅を出て、唐突に思い出す。アイドル活動と学業を両立しているつもりだが、最近成績が下がってきているので空いている時間にでも勉強をしなくてはいけない。馴染み深い小さな書店に足を運ぶ。
 カラン。見慣れた小さな店内のお目当てのものがある場所へ向かう。適当に一冊手に取ってレジへ向かった。本を置いて、お金を取り出して。視界から本が消えて声が聞こえた瞬間。

「……へ」

 驚いて顔をあげた。そこにはライブハウスで見かけるいつもの彼がいたから。言葉にならない言葉が漏れる。それは彼も同じだったようで。

「せ、1360円です!」
「はいっ」

 条件反射なのか、声を張り上げて値段を言う彼に、つい私も声を張り上げてしまう。おつりをもらった後、どちらからともなく笑ってしまった。

「ここで働いてるんですね」
「あっ、あの、はい。そうです」
「松野、さん」
「はい」

 参考書を袋に入れてもらって受け取る。ありがとう、と伝え私は回れ右をしてお店の扉を開けようとすれば、あの!と声をかけられた。振り向いて次の言葉を待つと

「ひなたって、なんで教えてくれたんですか!?」
「…………」


「内緒っ!」

 にこり。
 なんとなく、意地悪をしたい気分になった。ぽかんとした表情を浮かべる彼を背に、小さな本屋を出た。途端にprrrrと携帯のコール音が鳴る。今日はよく電話が鳴る日だ。

「はい」
『あ、めるちゃん!大ニュースよ!』
「え?」


『ライブに出演することになったわ!』


prev / next
MENU


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -