アイドルだって馬鹿をみる
あ、まただ。
「今日もきてくれてありがとう〜!」
また今日も、あの人が私のライブにきている。うちわはにゃーちゃんのままだけど。緑のチェック柄シャツにリュック、カーキのパンツの人ばっかりに目が行くのはにゃーちゃんのせいだと言っておこう。
「それでは聞いてください!」
とぅいんくる☆がーる
なんて名前の歌を歌い始める。この歌に、格好に、不満なんて何一つない。自分が好き好んで始めたものにケチをつけるなんてもってのほかだ。でもなんとなく最近やるせなさを感じるのはなんでだろう。この年になってとか今さらなことを考えるようになったのはいつからだったっけ。あぁ、あの人を見かけてからだっけ。
「ありがとうございました!またきてね☆」
地下街のアイドル活動なんて芸能界で売れている人に比べれば天使と米粒のような差がある。だから特に疲れてもいないしこの程度のライブじゃ全然疲れない。ライブハウスを出てしまえば私は普通の女子大生になってしまう。そんな事実が私をやるせなくしてしまうんだ。ええ、ただの女子大生の構ってちゃんにすぎないんです。
「20代で恋もろくに経験してないって、飽きれちゃうな」
中学、高校と女子高に通ってきた私は共学の大学でも男友達なんていないし未だに話すだけ緊張してしまうし。モテるはずもない。
「夢咲める、だったら何か違うのかな」
不毛なことを考えてしまう癖をどうにかしようとして、どうにもできない。ああ、いやだなあ。こんな日は早く帰ってさっさとお風呂に入って寝てしまおう。それがいい。なんて考えて拙い楽屋を足早に去って見慣れた階段を駆け上がる。裏口の割に人が結構いるのはどう考えてもおかしいと思う。前もばったりと会ってしまったし。
「あ!」
「え」
デジャヴ。
物凄く既視感を感じた。今度は私ではなく相手の方から声がかかった。顔をあげればさきほどライブで見た顔だ。ついでにここでばったり会った人でもある。
「あの、めるちゃんですよね?」
「え、あっ」
今度はバレてしまったようだ。さすがに2度も気付かれなかったら私はアイドルをやめていたかもしれないけど。こういうとき、どういう反応をすればいいのかいっぱしの芸能人じゃない私にはわからない。かりにも端くれならば対応の心得くらい嗜んでおけと言う人がいたら申し訳ない。
「先日は、失礼なことをしてすいません」
「……え?」
「あの、本当に他意はなくて!いや、他意がない方が失礼か……?ああもう!本当にすいません!」
「だ、大丈夫ですよ」
「……本当ですか」
あまりにも必死な姿に、なんだか胸が痛んでしまう。というよりなんで謝るんだろう。謝られた方が割と傷ついたりするんだけどな。
「何度もライブに来てもらえるだけで有難いことなんです」
本当に、何気なく放った一言だった。彼はぽかんとしたままこちらを見つめて動かなくなってしまって、手を振ってみても声をかけても無反応だ。
「……サインペン」
きゅぽん、なんて音を間抜けな音を立てて開かれるキャップ。その中から覗く真っ黒なモノで彼の手にひなたの文字を記す。またきてね、という文字も添えて。動かなくなってしまった彼に小さく笑いを漏らしてから、あのときと同じように横を通りぬけて歩き出す。出てきたときは陰鬱でしかなかった夜空になぜか胸が躍ってしまう。
「星が綺麗だなあ」
なんだか、彼に会うと私の心に嬉しいような居心地の悪いような「隙間」が生まれてしまうようだ。
「今日もきてくれてありがとう〜!」
また今日も、あの人が私のライブにきている。うちわはにゃーちゃんのままだけど。緑のチェック柄シャツにリュック、カーキのパンツの人ばっかりに目が行くのはにゃーちゃんのせいだと言っておこう。
「それでは聞いてください!」
とぅいんくる☆がーる
なんて名前の歌を歌い始める。この歌に、格好に、不満なんて何一つない。自分が好き好んで始めたものにケチをつけるなんてもってのほかだ。でもなんとなく最近やるせなさを感じるのはなんでだろう。この年になってとか今さらなことを考えるようになったのはいつからだったっけ。あぁ、あの人を見かけてからだっけ。
「ありがとうございました!またきてね☆」
地下街のアイドル活動なんて芸能界で売れている人に比べれば天使と米粒のような差がある。だから特に疲れてもいないしこの程度のライブじゃ全然疲れない。ライブハウスを出てしまえば私は普通の女子大生になってしまう。そんな事実が私をやるせなくしてしまうんだ。ええ、ただの女子大生の構ってちゃんにすぎないんです。
「20代で恋もろくに経験してないって、飽きれちゃうな」
中学、高校と女子高に通ってきた私は共学の大学でも男友達なんていないし未だに話すだけ緊張してしまうし。モテるはずもない。
「夢咲める、だったら何か違うのかな」
不毛なことを考えてしまう癖をどうにかしようとして、どうにもできない。ああ、いやだなあ。こんな日は早く帰ってさっさとお風呂に入って寝てしまおう。それがいい。なんて考えて拙い楽屋を足早に去って見慣れた階段を駆け上がる。裏口の割に人が結構いるのはどう考えてもおかしいと思う。前もばったりと会ってしまったし。
「あ!」
「え」
デジャヴ。
物凄く既視感を感じた。今度は私ではなく相手の方から声がかかった。顔をあげればさきほどライブで見た顔だ。ついでにここでばったり会った人でもある。
「あの、めるちゃんですよね?」
「え、あっ」
今度はバレてしまったようだ。さすがに2度も気付かれなかったら私はアイドルをやめていたかもしれないけど。こういうとき、どういう反応をすればいいのかいっぱしの芸能人じゃない私にはわからない。かりにも端くれならば対応の心得くらい嗜んでおけと言う人がいたら申し訳ない。
「先日は、失礼なことをしてすいません」
「……え?」
「あの、本当に他意はなくて!いや、他意がない方が失礼か……?ああもう!本当にすいません!」
「だ、大丈夫ですよ」
「……本当ですか」
あまりにも必死な姿に、なんだか胸が痛んでしまう。というよりなんで謝るんだろう。謝られた方が割と傷ついたりするんだけどな。
「何度もライブに来てもらえるだけで有難いことなんです」
本当に、何気なく放った一言だった。彼はぽかんとしたままこちらを見つめて動かなくなってしまって、手を振ってみても声をかけても無反応だ。
「……サインペン」
きゅぽん、なんて音を間抜けな音を立てて開かれるキャップ。その中から覗く真っ黒なモノで彼の手にひなたの文字を記す。またきてね、という文字も添えて。動かなくなってしまった彼に小さく笑いを漏らしてから、あのときと同じように横を通りぬけて歩き出す。出てきたときは陰鬱でしかなかった夜空になぜか胸が躍ってしまう。
「星が綺麗だなあ」
なんだか、彼に会うと私の心に嬉しいような居心地の悪いような「隙間」が生まれてしまうようだ。
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