流れ星を見るような衝撃
彼女はなぜあんなに輝いて見えるんだろう。
きっかけは、友人に無理矢理連れてこられただけの、特に興味を持たない地下街アイドルのライブ。初めてだったし、どうせ見てないだろうと思ってにゃーちゃんのうちわを持って行った。しかし入ってみればそれなりにファンがいるらしくにゃーちゃんのうちわを振り回すのも気が引けてしまって結局ただ手に持っている状態のままで彼女は登場した。瞬間、彼女はあたりを見渡してこう言ったんだ。
「いつも見る顔がたーくさん!新しい人もいますね!嬉しいです!ありがとう!」
なんて。普通のことだろう、と言う人もいるだろう。でも彼女はしっかりと僕の顔を見て「新しい人」と言ったんだ。こうやってしっかりと人の顔を覚えるのは簡単そうでとても大変なことだとバイトで思い知っているから、彼女はとてつもなく輝いて見えた。
正直、歌よりも彼女自身が輝いていて歌が全然耳に入ってこなかった。歌う途中に笑う顔、手を振る姿、ダンス、なにもかもがキラキラとしていて、衝撃的だった。
「……すごいな」
「だろ?」
「なんで売れないのかわからないよ」
「めーちゃんの握手会2回とも参加したんだけど、2回目は俺の顔しっかり覚えててくれてさ。そういうのってすごい嬉しいよな」
「へぇ……それは嬉しい」
僕もにゃーちゃんに覚えてもらえたらな、なんて考えていると友人がちょっと待っててとどこかへ行ってしまった。待ってろって言われたからには動くのは忍びないが、かといってどのくらい待っていればいいのかもわからない。寒いし。どうしようかと考えていると、
「あ」
なんて聞こえたものだから「え?」と口に出しつつ振り返ってみればそこにはなんとも可愛らしい子がいた。コートを着ているがコートの中から覗く服は女の子らしくて、さらさらと靡く髪の毛が印象的だな、と思った。なんとなく、だけどこのご時世に歩かせるには頼りない感じがしてつい自分のお節介が働き、彼女に声をかけてしまっていた。
「こんな時間に女の子が一人で出歩くのは危ないよ」
「へ」
「このご時世何が起こるかわからないしね」
きょとん。
まさにこの言葉が似合うような顔をしていた。可愛らしい顔がぽけーとした顔になって僕はなんだかおかしくて少し笑いをこぼしてしまった。すると彼女が僕に近寄ってきてカバンからなにかを取り出す。
「ありがとうございます」
にこり。
あ、かわいい。女の子にこんな距離で笑い掛けられたことなんて初めての経験(にゃーちゃんの握手会を除いて)だから僕はすぐに気付く。顔が熱いと。
そしてきゅっと手を握られるものだから、驚いてしまって声が出せずにいると「ライブにきてくれて、ありがとう」と声が聞こえてやっと僕はそこで思考回路が働き始めた。そこに彼女の姿はなく振り返れば後姿が遠くなっていて、かさりと手の中にあるモノを視線に持ってきてみれば
「夢咲、める」
きゅるんとした文字でそう書かれた名刺があった。
「ライブにきてくれてありがとう」という文字とこの名刺が一直線に繋がる。どうして僕は彼女に気付かなかったんだろう。そう、髪を下ろしていたけれど手を握ってくれたのは、数十分前ステージ上に立っていた彼女だった。
「……めーちゃん、だとにゃーちゃんみたいだから、もうめるちゃんでいいよね」
ふわり。と彼女と言う名の空へ放り出されたみたいに僕は立ち尽くしていた。数分後にコンビニに行っていたという友人が帰ってきたが、このことは、話せるわけがない。
きっかけは、友人に無理矢理連れてこられただけの、特に興味を持たない地下街アイドルのライブ。初めてだったし、どうせ見てないだろうと思ってにゃーちゃんのうちわを持って行った。しかし入ってみればそれなりにファンがいるらしくにゃーちゃんのうちわを振り回すのも気が引けてしまって結局ただ手に持っている状態のままで彼女は登場した。瞬間、彼女はあたりを見渡してこう言ったんだ。
「いつも見る顔がたーくさん!新しい人もいますね!嬉しいです!ありがとう!」
なんて。普通のことだろう、と言う人もいるだろう。でも彼女はしっかりと僕の顔を見て「新しい人」と言ったんだ。こうやってしっかりと人の顔を覚えるのは簡単そうでとても大変なことだとバイトで思い知っているから、彼女はとてつもなく輝いて見えた。
正直、歌よりも彼女自身が輝いていて歌が全然耳に入ってこなかった。歌う途中に笑う顔、手を振る姿、ダンス、なにもかもがキラキラとしていて、衝撃的だった。
「……すごいな」
「だろ?」
「なんで売れないのかわからないよ」
「めーちゃんの握手会2回とも参加したんだけど、2回目は俺の顔しっかり覚えててくれてさ。そういうのってすごい嬉しいよな」
「へぇ……それは嬉しい」
僕もにゃーちゃんに覚えてもらえたらな、なんて考えていると友人がちょっと待っててとどこかへ行ってしまった。待ってろって言われたからには動くのは忍びないが、かといってどのくらい待っていればいいのかもわからない。寒いし。どうしようかと考えていると、
「あ」
なんて聞こえたものだから「え?」と口に出しつつ振り返ってみればそこにはなんとも可愛らしい子がいた。コートを着ているがコートの中から覗く服は女の子らしくて、さらさらと靡く髪の毛が印象的だな、と思った。なんとなく、だけどこのご時世に歩かせるには頼りない感じがしてつい自分のお節介が働き、彼女に声をかけてしまっていた。
「こんな時間に女の子が一人で出歩くのは危ないよ」
「へ」
「このご時世何が起こるかわからないしね」
きょとん。
まさにこの言葉が似合うような顔をしていた。可愛らしい顔がぽけーとした顔になって僕はなんだかおかしくて少し笑いをこぼしてしまった。すると彼女が僕に近寄ってきてカバンからなにかを取り出す。
「ありがとうございます」
にこり。
あ、かわいい。女の子にこんな距離で笑い掛けられたことなんて初めての経験(にゃーちゃんの握手会を除いて)だから僕はすぐに気付く。顔が熱いと。
そしてきゅっと手を握られるものだから、驚いてしまって声が出せずにいると「ライブにきてくれて、ありがとう」と声が聞こえてやっと僕はそこで思考回路が働き始めた。そこに彼女の姿はなく振り返れば後姿が遠くなっていて、かさりと手の中にあるモノを視線に持ってきてみれば
「夢咲、める」
きゅるんとした文字でそう書かれた名刺があった。
「ライブにきてくれてありがとう」という文字とこの名刺が一直線に繋がる。どうして僕は彼女に気付かなかったんだろう。そう、髪を下ろしていたけれど手を握ってくれたのは、数十分前ステージ上に立っていた彼女だった。
「……めーちゃん、だとにゃーちゃんみたいだから、もうめるちゃんでいいよね」
ふわり。と彼女と言う名の空へ放り出されたみたいに僕は立ち尽くしていた。数分後にコンビニに行っていたという友人が帰ってきたが、このことは、話せるわけがない。
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