煌々星空地下街アイドル
アイドルには、ライブをするときにお客様の顔をしっかりと見て把握をするアイドルとお客様の顔を見ているようで見ていないアイドルがいる。私がどちらかと問われれば前者なわけですが、今日も今日とてお客様の顔を見ながら歌ったりするわけで。売り出されて早や1年と少し、シングルCD3枚、握手会2回、売れない地下ドルやってます。
「ありがとうございました!」
ぺこりとお辞儀をして舞台から去る。ヒューヒューと声がいつもより新鮮に聞こえるのはなんでなんだろうか。答えは観客席にあるわけだけど、周りの人から見てみれば勘違いだろと言われてしまうようなほどの淡い高揚だった。
「お疲れ様、めるちゃん」
「おつかれさまです!」
挨拶を交わし、自分の楽屋(とも呼べないような拙い部屋)に入っていく。しがないが夢咲める様と書かれた紙も貼ってある。備え付けのソファへ腰かけ「ふぅ」と息を吐く。カバンから携帯を取り出してブラウザを開き文字を打っていく。
「にゃー、ちゃ、ん……っと」
もちろん、この界隈にいれば知らないわけない「橋本にゃー」という存在。なぜ私がわざわざ調べてるか、それは今日の観客席にいた人のせいだ。
「なんで、」
私のライブにきて、『にゃーちゃん神推し』と描かれたうちわを持っている人がいるんだろう。そう、いたのだ。にゃーちゃんのうちわを振り回している人が。控えめに、照れくさそうにだけれど。
緑のチェック柄シャツにリュック、カーキのパンツ。普段なら特に目に留めるような人ではないと思う、でも、ほんの少しだけ星屑のように僅かな少しだけれど彼に私のうちわを持ってもらいたい、と考えてしまった。
「今日はもう帰ろうか」
誰に言うでもなく、ただ漏らす。今日はもう出番もないしここにずっといても迷惑なだけだろう。手に持った携帯をカバンに仕舞いこんで、衣装の上にコートを羽織る。パチンと電気を消してそっと楽屋を出る。上に向かってタンタンと階段を上がってヒューと木枯らしの吹く街へ足を踏み出す。すると運命の悪戯か、ばったりと先程の彼がそこにいた。
「あ」
「え?」
油断していた私はつい声を漏らしてしまった。私の存在に気付いていなかった彼も、声に反応してこちらを振り返る。まずい、コートを着ているとはいえ頭は何も被っていない。マフラーすらもつけていないのだからこれはさすがにバレてしまう。なんと誤魔化そうかと考えていると、彼が口を開いた。
「こんな時間に女の子が一人で出歩くのは危ないよ」
「へ」
「このご時世何が起こるかわからないしね」
……。
…………。
え!?まさかこの人、私がめるだってこと気付いてない!?そりゃあ、寒いから髪の毛を下ろすくらいはしたけどそこまで変わらないよね。
なんとなく、芸能人としてやり過ごせるのはありがたいけどちょっと悔しい。だってなんだか、私のことがちゃんと認識されていないみたいだ。ライブにきていたくせに。
「ありがとうございます」
にこりと笑って彼に近寄る。え、と声を漏らす彼にカバンから夢咲めると可愛らしい文字で描かれた名刺をとって、彼の手に握らせ「ライブにきてくれて、ありがとう」とだけ言って、彼を横切って歩いて行く。あ、本名書いておけばよかったな、なんて思いながら私は家への帰り道を急いだ。夜空にはキラキラと星たちが煌いていた。
「あ、新曲の案考えなくちゃ」
「ありがとうございました!」
ぺこりとお辞儀をして舞台から去る。ヒューヒューと声がいつもより新鮮に聞こえるのはなんでなんだろうか。答えは観客席にあるわけだけど、周りの人から見てみれば勘違いだろと言われてしまうようなほどの淡い高揚だった。
「お疲れ様、めるちゃん」
「おつかれさまです!」
挨拶を交わし、自分の楽屋(とも呼べないような拙い部屋)に入っていく。しがないが夢咲める様と書かれた紙も貼ってある。備え付けのソファへ腰かけ「ふぅ」と息を吐く。カバンから携帯を取り出してブラウザを開き文字を打っていく。
「にゃー、ちゃ、ん……っと」
もちろん、この界隈にいれば知らないわけない「橋本にゃー」という存在。なぜ私がわざわざ調べてるか、それは今日の観客席にいた人のせいだ。
「なんで、」
私のライブにきて、『にゃーちゃん神推し』と描かれたうちわを持っている人がいるんだろう。そう、いたのだ。にゃーちゃんのうちわを振り回している人が。控えめに、照れくさそうにだけれど。
緑のチェック柄シャツにリュック、カーキのパンツ。普段なら特に目に留めるような人ではないと思う、でも、ほんの少しだけ星屑のように僅かな少しだけれど彼に私のうちわを持ってもらいたい、と考えてしまった。
「今日はもう帰ろうか」
誰に言うでもなく、ただ漏らす。今日はもう出番もないしここにずっといても迷惑なだけだろう。手に持った携帯をカバンに仕舞いこんで、衣装の上にコートを羽織る。パチンと電気を消してそっと楽屋を出る。上に向かってタンタンと階段を上がってヒューと木枯らしの吹く街へ足を踏み出す。すると運命の悪戯か、ばったりと先程の彼がそこにいた。
「あ」
「え?」
油断していた私はつい声を漏らしてしまった。私の存在に気付いていなかった彼も、声に反応してこちらを振り返る。まずい、コートを着ているとはいえ頭は何も被っていない。マフラーすらもつけていないのだからこれはさすがにバレてしまう。なんと誤魔化そうかと考えていると、彼が口を開いた。
「こんな時間に女の子が一人で出歩くのは危ないよ」
「へ」
「このご時世何が起こるかわからないしね」
……。
…………。
え!?まさかこの人、私がめるだってこと気付いてない!?そりゃあ、寒いから髪の毛を下ろすくらいはしたけどそこまで変わらないよね。
なんとなく、芸能人としてやり過ごせるのはありがたいけどちょっと悔しい。だってなんだか、私のことがちゃんと認識されていないみたいだ。ライブにきていたくせに。
「ありがとうございます」
にこりと笑って彼に近寄る。え、と声を漏らす彼にカバンから夢咲めると可愛らしい文字で描かれた名刺をとって、彼の手に握らせ「ライブにきてくれて、ありがとう」とだけ言って、彼を横切って歩いて行く。あ、本名書いておけばよかったな、なんて思いながら私は家への帰り道を急いだ。夜空にはキラキラと星たちが煌いていた。
「あ、新曲の案考えなくちゃ」
prev / next
MENU