Dreamy Twinkle | ナノ

好きなものは好きでいい

 私は昔から、テレビに映るアイドルに夢を見ていた。キラキラと踊る姿が、歌声が、笑顔が、何もかもが魅力的で私はアイドルに魅入っていた。いつからか、私もそのステージに立ちたいと思うようになって今では売れないけどステージに立つことを許される身になった。前にも言ったことがあるけど、今の自分が置かれている状況、環境に不満は何一つない。自分が望んだことだから。ただ、もし。これから先にこのアイドルというものが何かの枷になるならば、私は迷わず捨てるだろう。私が売れない理由はきっと、アイドルを捨てることに躊躇がないからだと思っている。アイドルを捨てないという選択、それをしてまで欲しいものは、私にはない。

「この曖昧なままで続けて、いいのかな」

 どこか、キリがいいところでもうキッパリやめてしまった方がいいかもしれない。こんな中途半端な気持ちでは、ファンの方にも申し訳ないから。
 今の私でキリがいいと言うと、やはり赤塚ホールでのライブだろう。あそこでアイドルを辞めるとファンのみんなに伝えられるといいな、と考えて私はすぐに携帯を手に取った。ここまで一緒にやってきたマネージャーさんには申し訳なさでいっぱいになる。プルルルルとコール音が響くことに比例して心臓の音も大きくなっていく。3コールめで音が鳴り止んで、代わりに聞きなれた声が耳に入ってくる。

『どうしたの?』
「あの、急で申し訳ないんですけど」



 突然のことで、マネージャーさんも驚いていた。それでも責めることもせず私の意思を尊重すると言ってくれて、ライブの場でいきなり伝えたい、というわがままなお願いも聞いてくれた。本当に頭があがらない。
 最初で最後になる赤塚ホールのライブ、みんなに最高に楽しんでもらうために私はいつも以上に頑張らないと、と気合を入れた。


「芽衣子さん、無理を言って本当にすいません」
「うん……、残念ね」
「1年と少しでしたが、すごくお世話になりましたね」
「そうね、出逢った頃、覚えてるかしら?」
「……はい、昨日のように思い出せます」

 マネージャー、芽衣子さんとの出会いは本当に唐突だった。大学の帰り道に月刊のアイドル雑誌を読んでいた私に芽衣子さんは声をかけてきた。

「ねえ、あなたアイドルに興味ない?」
「え……?」
「その手に持ってる雑誌に映ってるアイドル、私たちが手掛けているの」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。今、新しく新人を起用しようって話になっているのだけれど、もし興味があればこの名刺に記載されている番号へ電話して頂戴」
「はい……。わかりました」

 その日一日はずっと悩んでいて、次の日勇気を出して電話をかけた。とんとん拍子に話は進んでいってあっという間に地下街アイドルのデビューを果たした。売れるか売れないかは別として自分もアイドルになったんだ、という感動が今でも忘れられない。

 でも、今はもうその純真な心もなくなってしまった。

 あるのはよくわからない温かい感情、それだけだった。


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