Dreamy Twinkle | ナノ

淡くて優しい音色に包まれる

「あ、あの、ここは……?」
「ん?俺たちの家」
「……?」

 俺たちの、家?意味がよくわからず、もう一度「ここはどこですか」と尋ねてしまった。赤いパーカーを着た人はケラケラと笑って、「だから、俺たちの家だってば」そう笑った。返答をしてもらえるのはありがたいけど、”俺たちの家”を知らない私からすればその詳細を教えてもらいたいところだ。

「あ、あなたは誰ですか?」
「俺?俺は松野おそ松!」
「ま、つのおそまつ……?」

 激しいデジャヴに襲われる。とても最近に知り合った人とよく似た名前、名字、顔、それに声。どうしたってチョロ松さんを思い浮かべてしまうわけで。

「っ、うわ!!!!何やってんだよおそ松兄さん!!」
「あ、チョロ松ー。なに可愛い子連れ込んでんの?」
「いいから出てけよ!余計なことすんな!」
「ちぇーっ。あ、ねえ可愛い子!チョロ松いい奴だからさ、どうか一回だけでもセッ」

 何かを言い切る前にスパンッと襖を閉めてしまった。全くもう、本当におそ松兄さんはなんでああなんだ……。ブツブツとなにかを手にしたまま頭が痛そうに呟くチョロ松くんに苦笑いを零す。手に持っていたものをコトリと床に置いたのでそれとなく覗いてみると桶に水をはってあってタオルが入っていた。同じようにしてお水と薬も置いてあって、まさに看病するところです。という感じ。

「……?誰か病気なんですか?」
「え?」
「え?」
「……ふっ、あははは!」
「え、な、なんで笑って……」
「自覚、ないんですか、ははっ。病気なの、ひなたさんですよ!」
「……わ、たし?」

 映画館を出てすぐ倒れたの覚えてませんか?
 言われてああ、そうだ。と思い出した。映画館を出た後の記憶がないのはそのせいだったのか。それでたぶん、チョロ松さんが私をここまで運んでくれたんだと思う。今気づいたけど、日が傾いて赤紫色になっているあたり私はここに運んでもらってから数時間は眠っていたことになる。

「ごめんなさい、せっかくのお出かけだったのに」
「気にしないでくださいそれに、」
「それに?」
「な、なんでもないです!」

 ほんのりと顔を赤くしたチョロ松さんを見て、対照的にサァと青ざめる私。まさか寝てる間に変なこと言ってたりしたんじゃ、そういうよくないものばかりが浮かんできてそんな私を察したのか「な、何も言ってなかったですよ!」とフォローをいれられてしまった。
 その後、風邪のひきはじめということもあって、体はだるく熱もあるのでずっと居座るとチョロ松さんにまで風邪をうつしかねないことからなんとかお家に帰ることにした。すごい勢いで止められたけど、申し訳なさもあって引き下がらずにいたらチョロ松さんが折れてくれた。

「今日はありがとうございました」
「気を付けてくださいね、何かあったら連絡してください」
「はい。ありがとうございます」

 あ、これつけてってください。
 ふわりとマフラーを巻かれた。緑色でチェックのマフラーはいかにも彼らしいなあと感じて自然と笑みが浮かぶ。それに首元もすごく温かくて彼の気遣いが身に染みた。


 家についてから私は、お風呂に入ることすら忘れて泥のように眠った。明日の講義は幸い昼からなのが幸いだった。ライブもないし、講義は行けそうになかったら出席だけ取ってもらえればノートは写せばいい。そんなことを考えながら私は意識を手放した。



 目が覚めると、朝の9時で大慌てで私は家を出た。11時頃からの講義だからそれほど焦る必要もなかったけど、なんとなくゆとりをもっていたい性格なのか、ギリギリだと必ず冷や汗をかくほどに焦ってしまう。


「おはよおお……!」
「あ、ひなた、おはよ!」
「なんでそんな焦ってるの?」
「ちょっと、寝坊して……」

 お疲れ様、と笑いかけてくれる友人を見てほっとした。隣に腰をかけてノートやら筆箱やらを開く。今日は夜にライブがあるのであまり体力を使ってまた熱を出すわけにもいかない。ちょっと体調悪いから大人しくしてるね、と友人に告げて静かにマスクの位置を直した。

 ぼーっとしていると、思い浮かぶのは彼の姿。目が覚めて、一番に思い浮かぶ顔だ。彼に会うと、見ると、知らない感情がどんどん芽生えていく。くすぐったくてほんのり温かい優しい感情。

「(消えてはくれない、感情……)」

 淡い色の、ちいさなそれは、やがて大きくなって、抑えきれなくなる未来が、ふと見えたような気がした。


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