Dreamy Twinkle | ナノ

距離っていったい何?

『図々しいことを承知で聞きたいんですが、今週の日曜日、空いてますか?映画のペアチケットをもらったのでよければ一緒に行きませんか』

 ガタッ。
 送られてきたメールを見た途端、手に持っていた携帯を地面へ落としてしまった。理由は言わずもがな、吃驚したから。だって、こんなの、デートのお誘いみたいで。落ち着かない手でメールを打つが、どう返せば失礼じゃないか、そう考えすぎて息が苦しくて気持ち悪くなった。このままでは埒があかないと無理矢理送信ボタンを押して、気を落ち着かせた。返信が来るまでの間、ライブでも感じたことのない緊張に支配されて、少し不快感を覚えた。ずっとこんな状態が続くなんて、死んでしまいそう。

「その日は空いてます。一緒に行きたいです」

 一緒に行きたいです、なんて大丈夫かな。不安になりながらもメールを送信する。数分後には「じゃあ、また日曜日に」と返ってきて嬉しく思いながら携帯を机の上に置いた。チョロ松さんは、どうして私を誘ったんだろう。少ない情報ではあるけど仲のいい友人はいるはずだ。一緒にライブにきてくれていた人とか。

「(嬉しい)」

 自分がアイドルだから?とか、考えたりもするけどただ、彼に一番に選んでもらえたことが、ただただ嬉しい。これ以上近づいてしまうとどんどんと貪欲になってしまう気がする。そう思うのに、手を伸ばしてしまうからやっぱり私は自分に甘いのだなと再実感した。



 日曜日、私は前日からずっとそわそわと落ち着かない様子でいた。そのせいか夜もよく眠れずじまいで1、2時間睡眠のまま家を出たのだけど歩いている途中少し体に違和感を感じた。しかしせっかくのお出かけなのに少し体調が悪いくらいで中止になるのは嫌なので無理ってレベルじゃない程度に頑張ることにした。

「おかしく、ないかな」

 一応私のできる限りのお洒落をしてきたつもりだけど、気合い入れ過ぎ?とか思われて引かれてしまいそう。ネガティブな考えばかりが浮かんで会うのが少し怖くなったとき、声をかけられた。

「ひなた、さん!」
「!」

 ぱっと顔をあげて、声のする方へ視線を向ければかっちりとしたスーツ姿のチョロ松さんがいた。声をかけるためなのか定かではないけどあげられた右手に気付くとぱっと自分の元へさげてしまう。はは、と恥ずかしそうに笑う彼になぜかキュンとした。

「……えっと」
「誘ってくださって、ありがとうございます」
「あ、いや!全然!そんな!」

 頭を下げればつられるように彼も頭を下げた。同じタイミングで顔をあげて、行きましょうかと言われてもないのにどちらともなく歩き出した。緊張した気分のまま映画館へ向けてぎこちなく歩いていると小さな声で名前を呼ぶ声が聞こえた。

「ひなた、さんは、どんな映画が好きですか?」
「あ、えっと、洋画が好きです」
「洋画……」
「へ、変ですか?やっぱりラブロマンスとか……」
「いやいや!全然いいと思います!」
「本当ですか?」

 ラブロマンスも好きなんだけど、よく見るのは洋画だったりホラーの方が多いのも事実。なんとなく嘘を吐くのは好ましくなくて素直に言ったけど、否定されたらどうしようかとヒヤヒヤした。

「よかった。実はこれ、映画館で好きな映画選んで見れるんですよ」
「え、そうなんですか?」
「はい。だから、ひなたさんの好きな映画を見ようと思って」
「ええ?なんで私なんですか」
「ぼ、僕あんまり映画に詳しくないから」
「私も詳しいってほどじゃないですよ」

 緊張はするけど、すんなりと話せていると思う。行く途中は映画の話でもちきりだった。どういう映画があるのか、最近の流行はどういうものなのか、ポップコーンは何味が好きだとか、小さなことだけど彼の好みを知れて嬉しかった。
 映画館について、何を見ようかと話し合ってる間、彼は言いづらそうにもじもじとしていた。気になって「どうしたんですか」と聞くと、「今さらですけどふ、服似合ってます!可愛いです!」と言われ、しばらくお互いに硬直したまま動けなかった。このタイミングで爆弾発言をされると思っていなかったから。それからまたどちらからともなくあの映画にしよう、という意見が出てポップコーンを買って入場をした。選んだ映画は私が好きだと言った洋画だった。少し気になっていたのでチョロ松さんの方から「あれにしよう」と言ってもらえたのは幸運だったのかもしれない。


 映画の内容は最高だった。リバイバルみたいなものだったけど、新たな内容も加えられたそれは2時間と言う時間があっという間と言っても過言ではない。最後の方は恥ずかしながら泣いてしまったほど。それまではよかった。映画館を出て、面白かったですねと話していたところまでは記憶がある。しかし唐突な吐き気と眩暈に襲われてしゃがみこんだ辺りから全く記憶がない。目を覚ますとそこは見慣れない部屋で、今私は記憶の整理を行っている真っ最中だ。


「あれ?目、覚めたんだ。よかった」

 私の知らない誰かが、私の知っている顔と全く同じ顔で声で、そう言葉を発した。


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