Dreamy Twinkle | ナノ

この距離感に溺れる

 薄々、自分でもわかってはいた。感じるものが違うという時点で、鈍い僕にこれでもかと言うくらいに自覚をさせようとしていたわけで、気付かない方が無理なんだ。でも、だからといって認めてしまったらいけない気がして。自惚れて、ぬるま湯に浸かるのは責められているような気がして。ファンの中の一人に戻れなくなってしまうのが、怖くて。

「松野くん、彼女とはどうだい?」
「え?」
「ほら、お店によく来るひなたちゃんだよ」
「どう、って?」
「付き合ってるんだろう?」
「ええ!?」

 手に持っていた荷物を落とすくらいには、店長さんの言葉に焦った。ごめんなさい!!と慌てて落ちた荷物を拾い出すと、「おや、お二人さんはまだ付き合ってなかったのかい」とはんなりとした声でそう告げられた。まだってなに!?付き合う予定なんかないですよ店長さん!?

「つ、付き合う予定はないですよ」
「おやおや、そうなのかい」
「というか、僕なんかが付き合ってもらえるわけないです!」
「ふふ、そんなことはないよ」
「た、たかがファンですから!」

 倉庫に仕舞ってきます!と半ば無理矢理話を打ち切って扉を開けた。店長さんから見たら僕とひなたさんは付き合ってるように見えるのかと考えると嬉しくてニヤけてしまったけど、そんなもしもでもあり得ないようなことで自分自身が自惚れるのはひなたさんにも迷惑だ。慌てて頭を振って倉庫に入荷した本を積むことに専念した。





 僕からメールを送るのは、大丈夫だろうか。迷惑とか思われないだろうか。かれこれそのことで悩んで30分は経過した。時刻は8時30分、あまり遅いとそれこそ迷惑がかかってしまう。ええい、ウジウジしていても仕方ない!勇気を出せ、男チョロ松!

「こんばんは、チョロ松です。今お時間ありますか?」

 ピ。送信ボタンを押した。ちなみに押すまでに5分かかった。そんなことは置いといて、いまだに震えが止まらない手をなんとか抑える。毎回こうだ、メールが送られてくるたびに震える、返信を打つ間も震える、送った後も震える。僕はバイブレーションかなにかだろうかと錯覚するほどにこの行為に慣れていなかった。
 ひなたさんとメールをする頻度は高くない。週に3、4回やりとりをするくらいだ。それは僕から送ったりひなたさんから送られてきたり色々。取り留めもないことではあるが話すのがとても楽しいので最近は日常生活にも影響しだして、トド松に「最近機嫌いいね。なにかあったの?」と言われるレベルだ。

『大丈夫ですよ、どうしたんですか?』
「図々しいことを承知で聞きたいんですが、今週の日曜日、空いてますか?映画のペアチケットをもらったのでよければ一緒に行きませんか」

 トド松に機嫌がいいと言われるくらい僕はきっと浮かれている。この状況に、甘えてずっと浸かったままでいようとする。許されるならば、僕はまだこの環境に甘んじて生きていたいと、そう思う。

『その日は空いてます。一緒に行きたいです』


「っしゃあ!!!!」

「うわっ!?急に叫び出すなよチョロ松!」
「チョロ松兄さんどったのー???」
「ふ、ついにブラザーにも春が……」

 しまった、と口を押えたときには既に遅し、ニタリと笑うおそ松兄さんと一松に捕まって「吐け!!!叫んだ理由を吐け!!」と言われ続け、拒否を続ければついには「十四松、チョロ松を卍固め」と指示されてしまった。別に素直に言うことはないんだ。適当に誤魔化すか、そう考えた僕は「ずっと行きたかったライブのチケットが抽選で当たったんだ」と嘘を吐いた。これなら信憑性も高いしあながち嘘なわけではない。きょとんとした顔を見せたのち「なんだよつまんねえな」言葉を吐いた。安堵したときには既に標的はカラ松に変わっていて、手に持ったスマホに表示されているメールをしっかりと保護をして画面を落とした。


 日曜日は、デ、デートだ。


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