Dreamy Twinkle | ナノ

まだ、気付かないでいいよ

「ねえ……チョロ松兄さんのアレ、ツッコんだ方がいいの?」
「やめといた方がよさそうじゃない?すーごい幸せそうだし、死ねそう」
「だよねー」

 がたがたがたと、手が震える。勢いで手に持っているものも揺れ、字がぶれる。それくらい僕は動揺していた。
 なんで僕はめるちゃんの連絡先を持っているんだ!?なんで本名まで知った!?なんで僕に教えてくれたんだ!?いけないとはわかってる、でも、こんなの自惚れるしかないじゃないか。少しでも僕に気があるんじゃないかって、期待をしてしまう。

「うわっ!?」

 僕の隣に置いてある携帯が、聞きなれたにゃーちゃんのメロディを奏でながら通知を表示する。差出人は、め、め、めるちゃん!?!?!!?!?

「は、はい!」
『ふふ、どうしてそんなに驚くんですか?』
「い、いや、だ、って」

 震えた指で着信ボタンを押して、声を出した。それが思っていたよりも裏返ってしまって、ああ、緊張してるんだなあとどこか遠くで思った。受話器越しの彼女の声は、ライブで聞くマイク越しの声でもなければ直接話すときの声とも違っていて新鮮だ。「すいません、からかうつもりはないんですけど」と可愛らしく笑う彼女にキュンとしながらも「そ、それでどうしたんですか」。言葉を返す。

『用と言うほどのものでもないんですが、ちょっと自分の度胸試しに……』
「え?」
『いいえ!せっかく連絡先をもらったのでかけてみただけなんです!』
「そ、そうなんですか?」
『はい。……迷惑、でしたか?』
「ぜ、ぜぜぜ、全然!!滅相もない!」

 ならよかった。また、電話かけてもいいですか?。彼女が言う。だめなわけないじゃないですか。僕。ありがとうございます。彼女。たった一分ほどの電話だったけれど、僕にはとてつもなく長いものに感じた。携帯を手中に収めながら天井を眺めていると、右からいつもの二人の会話が聞こえる。

「なあ、彼女から電話っぽくなかった?」
「僕も思ったそれ〜!でもあのチョロ松兄さんだよ?」
「うーん、童貞のくせにやりおる」

 うるさいな、と心の中でツッコんでバイトへの支度を始める。めるちゃんに会うためにも、お金を溜めなくてはならない。

「(……シフト増やそう)」

 憂鬱だったバイトも、彼女のおかげで俄然やる気になる。にやけそうになる顔を抑えて僕は早々に家を出た。

 見慣れた道を歩いているはずなのに、より一層色づいたみたいにキラキラとしていて、僕は違和感を覚えた。こんなにも世界は綺麗なものだっただろうか、こんなにも美しい音色だっただろうか。大げさだと言われるかもしれない。ただ、僕の中では確実に世界は色を、音を変えていた。にゃーちゃんのときには味わえなかった感覚。そう思うとやはり彼女は僕に大きな影響を与えてくれたみたいだ。
 ちらりと目に入ったポスターがびっしりと貼られている場所に数枚、めるちゃんとにゃーちゃんのポスターが貼られていた。珍しいな、と思いつつ自然と高揚する気分に苦笑いして2つのポスターを眺める。こうしてみてみると、やはりにゃーちゃんは可愛い。猫耳に猫の手、にゃんという感じで手招きをした姿がとても似合っていて。胸がほっこりとする。一方でめるちゃんを見るとギリっと心臓を握られたようになる。不快なものではなくてドキドキとうるさく鳴り、顔が熱くなる。僕はこの感覚を知らない。


「ああ、もう時間だ早く行かなきゃ」

 ぐるぐると乱れかけた思考を無理やり振り払って、僕は小さな本屋へ駆け出した。


 この感情に気付いてしまったら、もう、後には引けなくなってしまうから。


prev / next
MENU


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -