Dreamy Twinkle | ナノ

あなたは私の唯一の

「みんな〜!今日も来てくれてありがとう!実は、重大なニュースがあるんです!」

 どうやって伝えればいいのか迷った末に、原点回帰というか初心忘れるべからずというのか、無難に私らしく伝えることにした。
 ちらりと見慣れた顔になぜか安心をしてしまうことに若干に驚きを覚えつつ、伝えるべき内容を頭に描いてステージに立つ。

「……なんと」


「赤塚ホールでライブをすることになりました!」

 束の間の沈黙。瞬間、会場全体がどよめく。最初はみんなビックリするみたいだ。当たり前かもしれないけど。喜んだり、騒いでみたり。中には感極まって泣いている人までいる。こういうの、嬉しいなあ。

「詳しいことは、今はまだ話せないけど、みんなに来てほしいな!」

 寂しくありませんか?溜息こぼれる夜もあるよね。だけどせめて、ここにきているときだけはあなたのその悩みが軽くなりますように。精一杯頑張ります。



 見慣れたはずの階段を少しゆっくり上る。上って、扉を開けたらまた彼がいるんじゃないかって期待してる。期待、というよりは確信に近いもの。
 ガチャリ、とドアノブを捻る。いつもより温かい外の空気に安堵の息を漏らしつつ、顔をあげてみれば、予感的中。私が期待していた彼が立っていた。
 
「……あは、当たった」
「え?」
「いてくれると、思ってました」
「あ、えっと……すいません」
「どうして謝るんですか」

 くすっと笑うと彼もつられて笑う。あの、この前の質問のことなんですけど。彼が言う。

「あ!その前に赤塚ホールライブ決定おめでとうございます!」
「ありがとうございます」

 それで、その。
 僕に彼女はいないです。
 ぎこちなく、恥ずかしそうに、ぽつりと呟かれた。ああ、そうなんだ。彼女はいないんだ。なんとなく嬉しい気持ちになることに自分で驚きを感じながら、彼にこう言った。

「ライブ、絶対にきてくださいね!あと、ひなたは私の本名です」
「……教えたのは、初めてです」

 言ったあとに恥ずかしくなったので、あはっと笑って誤魔化す。ここのところずっと、イレギュラーというのか、変化が多い気がする。アイドルといえど、地味な生活を送ってきた私には少し眩しすぎる。
 ささっと彼に近寄って、再び手にとあるものを握らせる。こっそりと準備しておいたものだ。ぬかりはない。

「めるちゃん!……いや、ひなたさん!」
「……はい?」
「僕は自惚れますけど大丈夫ですか?!」

 声高々にそう言う彼に、また笑いを零して「大丈夫です!」と同じように声高々に返した。



 ピロン。
 メールが届いた。件名には松野チョロ松です。と律儀に書かれている。今やっと初めて、フルネームを知れた。チョロ松さん、と口に出してみると気恥ずかしくなったのでやめた。

『チョロ松です。名前を名乗るのは初めてでしょうか。覚えてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします』

 丁寧で、長ったらしくない生真面目そうな彼らしいメールだった。彼に手渡したとあるものとは、私の連絡先で、メールを送ってくださいという言葉と共に私は彼の元を去った。少し時間が経った今、メールが送られてきたわけであって。

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 自分は意外と積極的だったんだなあ、と思いながら返信を返した午後9時。


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