「ただいまー」
「おかえり、おそ松兄さん。って、え!?誰その子!?」
「んー、攫ってきた子」
「は?」
「……見るからに若そうだけど、何歳なわけ」
「17歳だってさ」
「犯罪じゃん!!!」
私は目の前の光景に、絶句した。同じ顔がいち、に、さん……おそ松さんを含めて六つある。どこを見ても同じ顔、同じ顔ばかりで正直私はゾっとした。
「あ、あの……?」
「……?あ、やっぱり驚いた?俺たち、六つ子なんだ」
「へ、む、六つ子……?」
双子、ならよく耳にするけど六つ子は聞いたことがない。あからさまに狼狽する私を見て腹を抱えて笑うおそ松さんの他に、鏡を見つめすぎてこちらに気付ていない青い服の人、私とおそ松さんを見比べて狼狽する緑の服の人、じとりと静かに体育座りでこちらを見つめる紫の服の人、定まらない焦点で楽しそうに笑いながら遊んでる黄色の服の人、 びっくりしたように叫びつつも手に持ったスマートフォンは落とさないピンクの服の人。口々にバラバラなことを言いながら(一人は気づいていないけど)私を見つめる目は同じような意味合いを含んでいる(一人は焦点が合ってないけど)。気がする。
「この子、今日から俺の家に泊まらせるから!」
「「「は!?!?!」」」
緑、ピンク、紫の服の人が揃って叫んだ。私の手荷物で察して欲しいところだけど、実際私も宣言されて驚いた部分はあるので口はつぐむ。小さくお辞儀をすると緑の人がすごい勢いでおそ松さんに詰め寄る。最初の部分はまともなことを並べたてられて居たたまれなかったけど、最後の方はなんだか早口だし何言ってるのかわからなかった。
「きみ、名前は?」
「あ、えっと、櫻城雛子です」
ピンクの服の人が、私の名前を訊ねてきた。顔がおそ松さんと大差がなくて気が緩んでしまう。「うん、雛子ちゃんね、僕はトド松って言うんだ、トッティって呼んで」にこやかに握手を求められおそるおそると言った感じで手をのばした。やわらかいともかたいとも言えない感触に少し恐怖を覚えた。どうしたって、あのことを思い出してしまう。人肌に触れると、余計に。
「あ、トド松お前!なんで手握ってんだよ!」
「もう、おそ松兄さんってば、握手だよ?握手」
「そんなん見ればわかるわ!」
でも、その子は!
そのあとの続きは私によって遮られた。私はとっさにおそ松さんの腕を掴んで静かに首を振った。すると「ごめん」と申し訳なさそうな声が聞こえてきて、顔をあげてみれば私よりも悲痛な顔をして、そこに立っていた。
「おそ松兄さんが、素直に謝ってる」
「あんな表情してるの、見たことないよね」
「ないない!」
「お前ら聞こえてるからな!!!!」
父さんと母さんに伝えてくる、と私を残しておそ松さんは降りていった。一瞬静かになった後、わっとみんなが詰め寄ってきた。
「ねえ、きみどんな手を使ったの?!」
「おそ松兄さんはやめといた方がいいよ!」
「……物好き」
「はっ、己の美しさに見惚れていた……。その子は誰だ?カラ松Girlかい?」
「違うよ。強いて言うならおそ松Girl」
「?!?!!?!」
あ、あのおそ松に彼女ができたのか?!
仰々しく叫んだ青い人。彼女という言葉にドキリとして、違うでしょ、と否定の言葉にチクリと胸が痛んだ。馬鹿らしいとは思いながらも薄々自分の気持ちに気付いてきた。いやでも気付かざるを得ない。
この感情は、恋なんだと。