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いつか辿りつくところ/愛のカタチ -1-

 私は、恋愛というものが苦手だった。

 アイドルとして保身を図るつもりはないが、恋愛経験を経て苦手になったのではない。幼い頃から芸能界と呼ばれる特異な世界に身を置いていたから、周りを見渡せば見た目の美しい女性はたくさんいた。それなりに成長してからは、彼女達にそういうアプローチを受けたことも少なくない。
 けれど私は、その感情に身を任せた者がどういった経路を辿るのか知っていたので、その誘いに乗ることはなかった。つまりまだ恋愛経験はゼロだ。だから、苦手というよりはマイナスイメージが強いと言ったほうがいいのかもしれない。

 何も盲目的に恋愛のすべてを否定するつもりはないのだ。恋愛に夢中になっている者が放つ輝きは思わず目を見張ってしまう程に美しくいきいきとしていて、声にも仕草にも幸せそうな雰囲気が満ち溢れているから。それがテレビ越しにも伝わるのだろう、人気はぐっと高まる。
 ただ、私たちはアイドルだ。アイドルはいつ何時でも見られている意識をもて、とはよくいったものだが、大抵はいくらもしないうちにマスコミに恋人との関係性を大々的に報道されてしまう。
 ファンに夢を売るのが仕事のアイドルに、『特別な誰か』がいる――そんなことが知られればもうおしまいで、仕事はぴたりとなくなる。予定していたものはもちろん、進行中のものも、どうかすれば後は公開を待つだけになっていたものも全て。認めたくはないが、代わりなんて掃いて捨てる程いる世界なのだから。もちろん例外もある、事務所力が強い場合だ。けれど人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、やはり完全には防ぎきれない。噂には尾びれ背びれがついて、対象が有名であればあるほど広まるだろう。そうすれば、皆醜聞に気をとられて本来の仕事内容なんて全く気にも留めなくなる。
 それでも、その『特別な誰か』と結婚し一生を添い遂げられるのならばそれはそれでひとつの幸せなのだろう。けれど私は、必ずしもそうならないことを既に知ってしまっている。他ならぬ自分の両親がそうであったように。

 結婚という形をとっていても簡単に終わってしまうのに、その前段階の恋愛なんてなおさら儚いものだとしか思えない。儚くて、そして刹那的だ。そもそもどれだけ自分が相手を好きになろうと相手がそれをどう受け取るかなど解らないし、たとえ気持ちが通じていわゆる両想いになろうとそれは一瞬の幻想だと、そういう印象しかない。

 幸いなことに私は長い芸能生活で誘いをかわす術には長けていたし、この春秘密裏に入学した早乙女学園は絶対に破れない恋愛禁止令があるので学園の生徒とどうこうなることもない。再デビューを目標としていた私にとってはもってこいの状況で、何の問題もなく一年を過ごせると思っていた。



 けれど人生とは得てして思い通りにいかないものだ。早乙女学園が全寮制ということは知っていた。ひとりではなく、ふたり部屋だということも。でもまさか、誰がルームメイトの男相手に恋をすることになると予想できるだろう。



 私のルームメイトは、一十木音也という男だった。彼は性格も何もかもが私と正反対で、誰もを惹きつける明るい性格と太陽のような笑顔という魅力を兼ね備えていた。認めたくはないが、その全ては私が『HAYATO』として目指していたものだ。私が何年も必死にレッスンに励みようやくそれに近いものを身に着けられるようになったそれを、彼は生まれながらに持っていた。

 一体なぜ、よりによって、こんな一緒にいるだけで私のコンプレックスを容赦なく刺激してくる男と同室にしたのだ、とこの部屋割りを決めた当本人である早乙女さんに恨み言のひとつでも言いたくなったが、彼もさすがに業界の大先輩だ。きっと何か意味のあることだろうと自分に言い聞かせた。
 たとえ意味などなくても、どうせ私は一ノ瀬トキヤとしての学園生活に加えHAYATOとしての生活もある。ここへは寝に帰ってくるようなものだから、最低限の挨拶さえすれば問題なく一年を過ごせるだろう、と。






改定履歴*
20120723 新規作成
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