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Y.執事×坊ちゃん×鞭

「はいカーット!お疲れ様でした!」
「最高の表紙ができあがりますよ、流石はファントムハイヴ伯爵だ」
「被写体がいいと撮る側としてもテンションが上がりますね」



そんな数々の賛辞を受けながら表紙の撮影を終えたのは、ほんの十数分前。
普段コミックスの表紙はセバスチャンが引き受けており、撮影は屋敷の一室で行われていた。
その間シエルはヴァイオリンの家庭教師にレッスンを受ける予定になっていたのだが、
なんでもその家庭教師が体調を崩したとかで急遽キャンセルになったのだ。

穏やかな午後にぽっかりと空いた、暇な時間。
それを持て余したシエルが、ほんの気まぐれでふらりと撮影の様子を見学しにきた時だ。
小道具のセッティングをしていたカメラマンとアシスタントが揃って目を輝かせたのは。

シエルの凛とした少年美に一目惚れしたカメラマンのたっての願いと
本来モデルの筈だったセバスチャン本人の目を血走らせた並々ならぬ説得に根負けしたシエルは、
とうとう一度だけという約束で被写体になることを承諾したのだった。

「お疲れさまでした、坊ちゃん」
「ああもう普段の仕事よりずっと疲れた。もう二度とやらないからな」
「まぁそう言わず。きっと最高に素敵な表紙になります、
 私はそう信じています。現にもうama●onで100冊ほど予約いたしました」
「…そんなに買ってどうする」
「私の部屋の壁を坊ちゃんの表紙で余すところなく埋めつくし、
 枕元に眺める用として一冊、そしてオカズ用にもう一…」
「わああもういい聞きたくない!」
「残念ですねぇ。あ、完成したらぜひ遊びに」
「行かない、絶対にだ」
「残念ですねぇ」
「ああもう余計疲れた」

慣れない仕事でよほど疲れたのだろう、自室に着くなりぐったりとベッドに倒れこむシエルとは対照的に、
セバスチャンはこれ以上ないくらいの笑顔でそれはもうにこにことしながら着替えの準備をしていた。
シエルはその後ろ姿をぼんやり眺めながら、手に持ったままの鞭を揺らしてみる。

「大体なんで、こんな物まで持たされたんだ僕は。乗馬用の道具だろう」
「おや、それは――」
「セバスチャン、これも片付けておけ」
「…………」
「?おい、聞いてるのか」
「……………」
「セバスチャン…?」


目をきらきらと輝かせて固まったままの執事が何も言わないのを流石に不思議に思ったのだろう、
シエルはベッドに膝立ちになりセバスチャンの目の前で手のひらをひらひらと振ってみる。
セバスチャンははっと正気を取り戻したようにシエルの両腕をがしっと掴んでぐっと顔を近づけ、
真剣な顔でシエルを見つめる。ぱさり、と着替えが床に落ちる音がした。

「坊ちゃん」
「…な、なんだ」
「お願いがあります」
「嫌だ」
「お願いがあります!」
「嫌だ!嫌な予感しかしない!」
「鋭いですね…流石私の坊ちゃん」
「やはりそうなのか」
「口が滑っただけです。今のは忘れてください」
「無理に決まっているだろう!」
「それよりも私の悪魔人生を掛けたお願いを聞いて下さい」
「嫌!嫌だ!!聞きたくない!」

いやいやと首を横に振って嫌がるシエルのほっそりとした手。
いつもより白く見えるそれは、きっと気のせいではないだろう。
それを恭しく持ち上げた執事は、ベッドに落ちていた鞭を手にとりそっと握らせた。
最早シエルの脳裏には嫌な予感しか浮かばず、背中をつうっと冷や汗が伝い落ちる。
そして残念ながら、その予感は現実のものとなるのだった。

「簡単です。お着替えの前に、この可愛らしいおててに握った鞭で私を叩いてください」
「ひぃい…!嫌だこの馬鹿何考えている!変態にも程があるぞ!」
「ああその残念なものを蔑むような視線、最高です…さぁ思い切り、ばしっとどうぞ!」
「どうぞじゃない!も、やだぁ!たすけて、だれか…」

どうにかこの場から逃げようとしたシエルがベッドから降りた瞬間、
あまりのショックに足元の定まらないかわいそうなちいさな足は執事のそれをぐっと踏んでしまった。
育ちのいいこの少年は、こんな状況だというのに一瞬申し訳ないという顔をして執事を見上げる。
だがそこにあったのはこの上ないくらいに輝いている変態の顔だった。

「な…まさかこんなご褒美までいただけるとは。もっとぐっと踏んでいただいて構わないのですよ」
「!!!!い、嫌だ近寄るな!誰か…タナカ!じいや、じいやたすけてぇ!」
「おやおや坊ちゃん…じいやなんてそんな可愛らしいこと言って。
 苛めたくなっちゃうじゃないですか今の私は苛めるより苛められたい気分なのに困ったちゃんですね」
「ちょ、マジ本当に本気でやめろ!大体やめろって言ってるのに聞かないなんて、
 契約印に悪いと思わないのかこの馬鹿悪魔!!」
「…今のは聞かなかったことにします。さぁ坊ちゃん、鞭を落としていますよ?
 しっかりにぎにぎしてくださいね?」

腰が抜け床に座り込んだシエルが半泣きで一生懸命後ずさりするのを追い詰めるように、
綺麗な笑顔を浮かべたセバスチャンが覆いかぶさっていって――



この日のファントムハイヴ家では、晩餐の時間姿を表さなかった主人のために、
普段よりずっとつやつやした執事がご機嫌で夕食をワゴンに載せてもっていく様子が見れたのだとか。
そしてこの日以来今までシエルが表紙を飾ることはなかった。






改定履歴*
20110224 新規作成
「もう二度としない」
「坊ちゃんそんな残念なこと仰らずに」
「残念なのはお前の頭と変態悪魔と契約を交わした僕の運命だ」
「坊ちゃんその蔑む目線もう一度ください」
「………」
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