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[.ウィル

暖かな春の午後の執務室で、今しがた処理を終えた山積みの書類を前にしたシエルが
紅茶を飲みながら不意に口にした言葉は、予測もしてないものだった。

「セバスチャン、あいつ、覚えているか」
「どなたでしょう?」
「サーカスの時のメガネ…じゃない、『スーツ』だ」
「ウィリアムさんですか」
「名前までは知らないが、多分そう」
「彼がどうか?」
「あいつ、もう来ないのかな」

ため息ついでにティーカップをソーサーに戻しながらそういうシエルの姿に、
セバスチャンの紅茶色の瞳が一瞬驚いたように丸くなる。
それは、たとえどんな不測の事態が起こっても絶対に整ったポーカーフェイスを
崩さない筈の悪魔が見せた、素の表情だった。

だがそれも一瞬、セバスチャンはまたいつものようにすっと目を細めて口角を上げ
きれいな笑顔を作ると、いつもと同じ、努めて冷静な声で返事をする。

「貴方が他人に興味を示すなんてめずらしいですね」
「んー…、興味っていうか…」
「どうされたのです?」
「ウィリアムの、アレ、が…っておい」
「はい」
「はい、じゃない。セバスチャン、近い」
「近づいておりますので」
「何故近づく必要がある」
「それはもちろん」

会話をしながら、大きなソファに座ったシエルの横に片膝をついたセバスチャンが、
細身のからだを閉じ込めるように押し倒してゆく。
主人が逃げないのをいいことに、執事はそのまま、赤くちいさな唇を塞いだ。

ふたりが恋人という関係になってからというもの、
昼間にこうやってキスをすることは決してめずらしいことではない。
ただ、いつもの啄ばむような、じゃれあうような感覚とは違うキスは、
まるでセックスの前のそれと同じように深いもので――…
いくらもしないうちに、シエルの意識と目線はとろけてしまったのだ。

「ん…っ、ふ、ぁ、何だ、ご機嫌斜めか」
「ええ。貴方の口から、私以外の男の名を聞くなんて最悪の気分です」
「悪魔でも嫉妬するのか」
「あたりまえでしょう?」
「それは面白いことを聞いた」

――このちいさなご主人様は、なんだってわざと自分の神経を逆撫でするようなことを言うのだろう。
またいつもの気まぐれだろうか。それとも反応を見て楽しんでいるだけ?

幼いからだからはくったりと力が抜けているくせに、それを気にすることもなく
楽しそうにくすくすと笑いを零すシエルの様子に、セバスチャンはため息をついた。

「で、ウィリアムさんがどうしたのです」
「ん…おまえ、僕が他の男のことを話すと嫉妬するんじゃなかったのか」
「いまさらでしょう、焦らさないでくださいよ。さぁ坊ちゃん、ウィリアムさんのアレとは?」

シエルの腰を抱きしめた腕にきゅっと力をこめて、拗ねたように目を瞑り質問を続けてみれば、
主人の笑い声と、細い指がさらりと髪を梳くのがわかった。
次に感じたのは、「うごくなよ」という声と、こめかみに当たる冷たい感覚。

「コレだ」
「コレって…眼鏡?」
「そう、おまえが家庭教師の時につけるやつだ」
「これが、どうかしましたか?」
「別に…コレをつけたおまえが、久しぶりに見たかっただけだ」
「じゃあウィリアムさんは」
「ただの話のきっかけ」
「は…ぁ」
「早く、セバスチャン。キスしろ」

そう、シエルは自分の腰に抱きつくようにして覆いかぶさる執事兼恋人に、眼鏡をかけたのだ。
そして、訳がわからないというように固まっているセバスチャンの頬に手を添えて、
まだあどけなさの残る顔つきに似合わない要求をする。
そのアンバランスさがやけに艶っぽく感じられて、ぞくりと背筋を快感が走った。

「――はぁ、貴方は全く…」
「なんだ、不満なのか」
「いいえ、とんでもない。すっかりオトナになられたなと思いまして」
「そう躾けたのはおまえだろう」
「ふふ、そうですね。では今日はコレをつけたまま、たっぷりご奉仕いたしましょうか」
「…言い方がやらしい」
「それがお望みだったのでしょう?」
「どうだかな」

誘うような視線に導かれるまま、セバスチャンがふたりの距離を縮めてゆく。
服を脱がせる前に、いつもの癖でキスをしようとしてみると、眼鏡が邪魔なことに気付いた。
いくら首の角度を変えても、いつものように深いキスはできないのだ。
シエルもそれに気付いたのだろう、蒼の瞳が物足りなさそうに揺れていた。

「キスがしづらいのはご了承くださいね?」
「…仕方が無いから、許してやる」
「ありがとうございます、マイロード」

――セックスが終わったら眼鏡をとって、この甘えん坊で我侭な主人が飽きるくらいに
たくさんたくさんキスをしてあげよう。

そんなことを思いながら、セバスチャンはシエルの首元のリボンをするりと解くのだった。



end

改定履歴*
20110422 新規作成
ウィルというかウィルの眼鏡というか、むしろ眼鏡萌えな坊ちゃんのお話でした。セバスチャンの眼鏡姿とても好きです。
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