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Z.ジョーカー -6-

「こ…これ」
「俺が付けたんじゃないよ」
「え、じゃあ」
「早く言ってくれたらよかったのに」
「なに、を」
「何って、コレをつけてくれるよーな恋人おるんやろ?…たとえば、今ソコにいる奴とか」

そう言いながらおもむろに背後を振り向いたジョーカーの視線を追えば、そこはテントの入り口で、
そこにいたのは、つい先程まで必死に頭の中で名前を呼んでいた恋人…だった。
ジョーカーはというと隠し切れない悪魔の気迫に圧されたのだろう、
降参だとでも言うように両手をひょいとあげ、ベッドから降りる。

「おや、気付かれてしまいましたか?」
「そりゃ、あれだけ殺気出されれば嫌でも気付くわな」
「そうですか」
「おっと、気付いたらちゃんと止めたやろ?勘弁してな」
「ええ、そうですね。ではそのかわり――」

セバスチャンはテントの中へとゆっくり歩を進めると、未だ動けずにいるシエルを抱き起こして
ひょいと抱えあげ、その涙に濡れた頬を優しく拭った。
途端にぼろぼろと新しい涙を零し、細い腕を恋人の首にまわしきゅっと抱きつく
シエルの背をぽんぽんとあやすようにそっと叩いてやる。

「このことは、秘密にしておいていただけますか?」
「勿論。そういうわけで、俺は退散するわ」

完璧な悪魔の笑顔でそう言ってシエルの頬にキスをするセバスチャンは、
まるでこの腕のなかにいる仔猫は自分のものだと相手に主張しているようだった。
その意図を鋭く読み取ったらしいジョーカーは、後ろ手にひらひらと手を振って出入り口へと足を進める。
どうやら、自らの危機を察知する能力には長けているようだ。

「スマイルがお世話になりました」

丁寧な礼の言葉がセバスチャンの口から紡がれるのと、ぱさりとテントの幕が下りるのは同時だった。



****
ベッドに座ったセバスチャンの膝の上、いまだにそこに抱かれたままの
シエルの幼いからだの上を、真新しいタオルが清めるように滑る。
そのふわふわとした優しい感覚は、混乱していたシエルの頭を落ち着かせてくれた。

「さぁ、綺麗になりましたよ」

最後にひとつ瞼にキスを落とすと、セバスチャンは腕の中の細身のからだを、
そっとベッドに寝かせてうすい毛布を掛けてやる。
「お寒くはありませんか?」と尋ねる笑顔はとてもやさしいもので、
シエルはこくんと頷きながら無意識にその手を握っていた。

ゆるく握り返してやれば、ただそれだけで安心したような表情を見せる恋人が愛しい。
席を外しているというルームメイトがいつ帰ってくるかだけが気がかりではあったが、
せめて主人が眠りにつくまではとベッドの端に腰を下ろした。

「…セバスチャン」
「はい」
「怒らないのか」
「あんなに泣いていた貴方を怒れる訳ないでしょう?」
「でも、僕は、…お前以外に」

言いながら思い出してしまったのだろう、折角止まっていたのに、
シエルの両の瞳にまたじわりと涙が浮かぶ。
セバスチャンは困ったように笑いながら、そのちいさな唇に指をあてて、しぃっと囁いた。
そうして、諭すように言葉を紡ぐのだ。小さく肩を震わす主人を、けしてこれ以上傷つけないように。

「いいえ、坊ちゃん。貴方は女王の番犬としてのお仕事を全うしようとされただけです。
 私は気高い主人に仕えることができて、誇らしいですよ」
「…ぅ、セバスチャ…」

ところが、静かな声の優しい言葉は、シエルの涙を抑えるのには逆効果だったらしい。
それでもこの気丈な主人は、これ以上涙を見せないようにとぐっと奥歯を噛み締め耐えていた。
セバスチャンはその意思を汲み取って目線を顔から逸らして、言葉を紡ぐ。
繋いだ手がゆっくりと、まるでシエルの鼓動に合わせるかのように揺らされて、
次第に気持ちが落ち着いてゆくのがわかった。



「ねぇ坊ちゃん。今後お着替えのお手伝いは、私だけにご命令くださいね」
「…嫉妬か?」
「ええ、まぁ。本音を言ってしまえば、貴方の肌に、私以外の男の手が触れるのは面白くないですね。
 先程だって、彼を八つ裂きにしてしまいたい衝動を抑えるのにどれだけ苦労したと思います?」
「ふふ、やっぱりおまえは、悪魔…だな」
「はい」

しばらくの間の後、思いがけず聞けた恋人の悪魔らしい本音に驚いたのだろう。
シエルは泣くことも忘れてじっと恋人を見上げた。セバスチャンはその視線に気付くと、
繋いだ右手はそのままに、体を捻って反対側の手でシエルの目元をそっと撫でる。
泣きすぎたからだろう、まっかに染まったそこは、心なしか腫れているようだった。

「…貴方のこの唇に触れていいのも、貴方のこの蒼を涙で濡らしていいのも、私だけです」
「随分傲慢な執事だな」
「ええ、私はあくまで執事で――貴方の、恋人ですから」

シエルの細身のからだに、ゆっくりとセバスチャンのからだが覆いかぶさってゆく。
静かなテントに、ちゅ、というかすかな音が響いて、
それから、くすくすじゃれるように笑い合う声が闇に溶けていった。





end

改定履歴*
20110307 新規作成
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