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Z.ジョーカー -4-

無防備にも緩く開いていた唇の隙間から、あたたかい舌が入ってくる。
自分のそれを絡めとられ、強く吸われて、甘噛みされて。
呼吸が苦しくなったところで無理やり首を横に捻って息を吸えば、
酸素が肺に届くと同時にようやく意識が覚醒した。

――今、僕は、何をしてた?

自分が置かれていた状況を把握するにつれて、シエルの綺麗な蒼の瞳に溜まってゆく涙にも構わず、
ふたたび唇が塞がれる。目の前の男は、腕の中の仔猫の反応を楽しんでいるようだった。
自分を膝の上に抱きとめている左手にはまるで逃がさないというように
ぐっと力が込められ、骸骨を模した右の義手はするりとなめらかな動きで
シエルの太腿を伝い、そのまま夜着の中へと潜り込んでくる。
恋人から与えられるものとは全然違うその感覚に、シエルの背をぞわっと嫌悪感が駆け上がった。

「!!ん、んー!っんぅ」

嫌だ、嫌だ、いやだ。
僕を抱きしめているのはセバスチャンの腕じゃない、
今僕の肌の上を滑るのは、あのあたたかい手じゃない。
座らせられている膝だって、なにもかもが僕の悪魔のものとは違う。

「んん…っ」
「――痛っ、」
「はぁ、も、離せ…っ」

がり、という音が耳に響き、口の中に広がる鈍い鉄の味。
気が付けばシエルは、自分の唇を塞ぐジョーカーのそれを思い切り噛んでいた。
今の今まで自分の腕の中で鳴いていた可愛い仔猫にこんなことされるとは思っていなかったのだろう、
ジョーカーの目は驚いたように丸くなったが、次の瞬間唇が緩く弧を描く。

「ただの仔猫や思うて油断しました。そら猫ならちいさくても牙はあるわな」
「な、なにするんだ」
「なにって、続き。なんだったら爪立ててもかまへんよ」
「!!やめ…っ」

どさりとそのままからだをベッドに押し倒され、先程着せられたばかりの夜着を捲くられる。
ひやりと肌を刺す冷たい空気が、シエルに絶望を運んだ気がした。
我慢できずにつうっと流れる涙を唇で拭われて、それはセバスチャンの役割なのにと思うと
また胸の奥が苦しくなって涙が零れて。その悪循環だ。
ジョーカーはそんなシエルの表情を見て困ったように笑うと、宥めるように頬にキスをした。

「そんなに嫌どすか?」
「嫌に決まってる…っ」
「初めてやろから、優しくするし」
「そんなのっ、僕は――」
「…?僕は、何?」

ああ、今ここで、自分の恋人がセバスチャンだと言えればどんなにいいか。
自分は魂も肉体も全てあの悪魔のもので、そしてあの悪魔は髪の毛一本まで自分のものだと。
そう叫んで、あの愛しい執事の名前を呼んでしまいたい。

けれど今の僕は『スマイル』で、セバスチャンは『ブラック』で。
そして、女王の憂いを晴らすための仕事で潜入調査中。
セバスチャンを呼び出して、彼が悪魔であることがばれてはいけないのだ。…絶対に。






改定履歴*
20110305 新規作成
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