キミが教えてくれたこと -4-
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ベッドサイドの電気も消してさっきまで真っ暗だった部屋に、カーテンの隙間からやわらかい朝の光が差し込んでくる。こんな朝早くに起きるようになったのは、おはやっほーニュースをやるようになったおかげだ。あの仕事を貰えた時はまだ、ボクは枕営業なんて知らなかった。今の音也くんみたいに、ただひたすら先輩アイドルに憧れて、ボクもああなりたいってそれだけを思って毎日仕事に夢中だった。あのころに戻りたい、なんて無茶なことは願わないけれど、できたら彼にはボクみたいになって欲しくない。ずうっとこのまま、純粋なままでいて欲しい。
「おーとや、くん」
くぅくぅと寝息を立てている彼の髪に指を絡ませ、ちいさな声でそうっと名前を呼んでみる。伏せたままの目を縁取る睫毛が少しだけ揺れたけれど、起きる気配はない。それどころか、まだ眠いよ起こさないで?って言うみたいに、くぅん、と甘えるように鼻をならして擦り寄ってくる。
そのこどもみたいにあたたかな体温がかわいくて、ボクの手は勝手に彼の頬を撫でていた。そうして、ほんのり赤く染まった頬にキスをひとつ。本当は、無防備にゆるく開いたままのくちびるがよかったんだけど、そうすると止まらなくて彼を起こしてしまうことになるのが目に見えていたから。
彼の寝顔をもっと見ていたいから、それはだめなんだよ。ほんの数日前までなら、こんなことを思うなんて考えられなかった。つまみ食いの相手を愛しく思うだなんて。
多分だけど、ボクはこの新人さんに、初めての恋心を教えてもらったみたいだ。
「はぁ、……こんなはずじゃなかったのににゃ」
でも、それも悪くない。こんなに可愛い寝顔の隣で朝を迎えられるのなら、尚更。
さぁ、この可愛い後輩が目を覚ましたら、彼の目を見て好きだと言ってみようか。初恋なんだよ、大事にするから、ボク以外のひとに抱かれないで、お願い、って。
彼はどんな顔をするだろう。驚いて目を丸くする?それともからかわないでって拗ねてしまう?わからないけど、きっと――最後には、ボクが一目惚れしたあの向日葵の笑顔でわらってくれるんだろうな。
end
改定履歴*
20120519 新規作成
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