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Next Stage!-4-

「何言ってんの、変わったよ! 俺、だいぶ変わった」
「え?」

 けれど、返ってきた反応は予想していたものとは違ったのです。音也はくすくす笑っている私を見て拗ねたようにそう言うと、おもむろに向かい合ってその右手で私の左手をとりました。彼と付き合うようになってから、ギターで苛め抜き皮膚が厚く硬くなった指先がそっと触れるやさしい感覚にすら、うれしくて鼓動が早まってしまうようになった私のからだ。彼はいとしそうな顔をして、そうっと私の中指で光る指輪を撫でました。

「だいじに、してくれてるよね」
「え……ええ、あなたがくれたものですから」
「この指輪プレゼントした時のこと覚えてる?」

 もちろん、と頷くと、今度は私の手ごとそれをひょいと持ち上げて、指輪にキスをおとしたのです。

「お前にこれを贈った時はね、俺、お前のことすっっげー好きだった。好きで好きで、どうしようもなくて。ただひたすら、お前と一緒に居たいって思ってた。それこそ、一分一秒も離れずに、ずっと」
「音也……?」

 彼は一体何を言い出すのだろう。『好きだった』なんて、まるで別れの言葉にも似たような言葉をどうして……?
 そういえば、早乙女さんはこのオファーの話を誰にまで開示したのだろう。当然のように自分しか聞いていないと思っていたけれど、そんなの何の根拠もない。
 ……もしかして、音也にも、言ってしまったのだろうか。

「でも今はね、ちょっと変わった。っていうか、気付いた、かな。何も傍にいるだけが愛情表現の全てじゃないんだ」
「――、待って、おとや、待…っ」
「行っておいでよ、トキヤ。行ってたくさんの人にお前の歌を聴かせて」
「待ってください!! 私は、その話は、断るつもりで」
「トキヤ、断るなんてだめだよ? お前だってわかってるんだろ? 正直言って、こんなチャンス二度とない。ね?」
「っでも、だって、離れてしまったら、私たちは――」
「トキヤ!」

 私達が男同士である以上、結婚という形をとることはできない。ふたりを繋ぐ確かなものなんてなにもないから、だから、少しでも傍に居たいのに。私は夢よりも大事なものを見つけたんです。あなたとの絆が今の私にはいちばん大事で、大切にしたいんです。そのためならば、他のなにもかもを捨てても惜しくはない。

 なのに、どうして、そんなことを言うのですか?



「トキヤはさ、」
「……はい」
「トキヤは、どうしてHAYATOをやめようって思ったの? お前の夢って何だった? 歌を歌いたい、だよね。それって、一人で歌えてればいいの? 違うよね、たくさんの人に聴いて欲しいんだよね? 俺は聴いて欲しいよ、聴いてるだけでこころがふわっとあったかくなって、どうしようもなくドキドキするような、お前のきれいな歌声」
「〜〜っ、けれど……」
「俺も! 頑張る。お前が海の向こうで歌って世界中をしあわせにしてる間に、俺も追いつく。そうしたらまた向こうで一緒にうたおう。きっとできるよ、俺達なら」

 すっかり慌ててしまった私の目を見てゆっくりゆっくり、まるでこどもを宥めるように紡がれる言葉。それはたとえばここで私が涙をみせてしまえば絆されてくれそうなくらいに優しい口調なのに、けしてそうはならない意思の強さが、私の大好きな赤の瞳に宿っていました。
 音也は、一度こうと決めたら決してそれを覆すようなことはしません。たとえそれが自分にとってどんなにつらいことでも。もう何年も一緒にいるのです。そんなことくらいわかります。

 ……わかって、いるんです。何も彼は、私と離れても平気な訳じゃない。私が音也なしではいられないように、彼もまたその生い立ちからひとりになるのを怖がっている。けれど、それでも、私の夢を知っているから、私が渡米してデビューすることを願っている。
 例えふたりが離れ離れになろうとも、私が夢を叶えることができるように、それを優先してくれている。





「『夢を見て 走ろうよGrowing up!! 世界に届けたい全部』」



 言葉の裏に隠された彼の優しさに涙が零れてしまうのを抑えきれない私は、いつのまにか彼のしっかりした腕に包まれていました。彼に身長を抜かされたのはいつだったでしょう。出逢った頃まだ15だった彼の身長はぐんぐん伸びて、今ではあの頃と同じだけの身長差で今度は私が見上げる側になってしまいました。
 ぽんぽんと宥めるように背中を叩かれながら、彼が歌ってくれる歌。これは、初めて二人で作詞した、大事な歌です。

「覚えてる? 懐かしいね、はじめて一緒に歌った歌。課題だったっけ。たのしかったなー、ふたりであーでもないこーでもないって一生懸命作詞してさ。あの頃は、学園のレコーディングルームが俺達の唯一の舞台だったよね」
「……はい」
「文化祭とか卒業オーディションでステージ貸してもらって、デビューできるってことになって、テレビ局で歌えるようになって。あっ、ソングステーションで初めての生放送すっげ緊張したよね! トキヤ覚えてる!? あ、でもお前はHAYATOとして経験済みだったか」
「――いえ、緊張しましたよ。W1として、一ノ瀬トキヤとしての全てのハジメテは、あなたと一緒に経験してきたんです。初めての生放送、トークが早口になってしまいましたね…、失敗しました」
「でも、すごくいい経験になった。次からは、すごい練習したよね。ゆっくり喋るように心がけようなって、ストップウォッチまで持ち出してさ」
「はい、あなたと二人で話していると、つい話が弾んでしまって、早口になってしまって……。ゆっくり喋るのがこんなに難しいだなんて初めての経験でした」

 きっと、私が泣き顔を見られるのが嫌なのを察してくれているのでしょう。音也は、けして私の顔を無理に覗き込むようなことをせず、私を腕の中に閉じ込めたまま楽しかった日々をひとつひとつ追うように言葉を紡いでくれました。ただひたすらに優しい声。その心遣いが嬉しくて、私は、瞼をぎゅっと閉じて涙を我慢するかわりに、ここが公共の場所だというのに彼の背中に腕を回してしまいました。

「――俺、お前とふたりでデビューできて、本当によかった。レコーディングルームも、ソングステーションも、はじめてのライブも。どんどん舞台が大きくなっていって、たくさんの人に見てもらえるようになってくのがうれしくて……、その全部の経験をお前と一緒にできてよかった」

 私もです。私もあなたと再デビューできて本当によかった。
 再デビューを目指して早乙女学園に入学して、駆け出しのアイドルから今に至るまで。性格もなにもかも正反対のあなたと過ごした日々は、目が回るくらいに忙しくて、ちょっとうるさいくらいに賑やかで、そして今まで生きてきた中でいちばん幸せでした。

「あのさ、トキヤ。どれだけ離れた場所にいたって、俺達は、ライバルだから。俺達は歌で繋がってるんだ。そうだろ?」
「ええ、そうですね。そして、どうせ戦うなら、舞台は華々しい方が好ましいです。私達はライバルですから」
「うん! 俺も絶対そこに行くから。だからさ。お前は先に行ってて」
「……はい。」

 この居心地のいい腕の中にずっとおさまっていたいけど、それでは成長できないから。私はあなたの言葉に甘えて、一足先に次のステージに向かいます。

「音也」
「ん?」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。っていうか、恋人の背中を押すのは、彼氏の役目だろ」
「ふふ、それは頼もしい彼氏ですね」
「今更ー? あ〜〜っでも、悔しいなぁ。トキヤに先越されたー!」
「待っててあげますから、早く追いついてください」
「くっそー! 追いついたら今度こそ、絶対負けないからなっ!」
「私だって、あなたには負けません」

 

 どんなに離れた場所にいても、あなたと私は音楽で繋がっている。この左手には、あなたがくれた指輪がある。あなたが先程この指輪に落としてくれたキスと、あの向日葵の笑顔を想うだけで、私は海の向こうの国でもがんばれるような気がします。
 だからいつかまたあなたと歌うことができるようになった日は、待っててくれてありがとう、よくがんばったねと笑って、次は指輪でなく私にキスをしてくださいね。







改定履歴*
20120407 新規作成

トキヤは他人に心を開くまでとても時間がかかるけど、一度そうなった相手にはわりとのめりこむというか、依存してしまうタイプだと思います。ずっと一緒にいたい、それがいちばんですってなると思う。音也だって本当はずっと一緒にいたいけど、トキヤの夢をしってるからこそ身を引いて応援するみたいな…でも心はちゃんと繋がってるよっていうそんなふたりがすきです
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