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ゆびきり -2-

『音也くん』

 俺の名前を呼ぶいとしい響きに、ぼんやり空中を漂っていた意識がひゅんと戻ってきたような気がした。ついでに言うと、呼ばれたのも気のせいだ。だってここには俺ひとりで来たんだから。
 南の島の信じられないくらいに透明度の高い海、それから突き抜けるような青空。最高のロケーションと天気で、スタッフも俺もそれに引っ張られるように最高の仕事ができた。撮影は予定よりずっと早くに終わり、そのおかげでぽっかりと空いた時間を、俺はひとりでぼうっとする時間に充てることにしたんだ。

 地元のひとに混じって適当に買ったでっかいボトルドウォーターとサンドイッチ片手に、これまた適当にバスに乗る。そうやって辿りついた海の見えるでっかい公園、そこで遅めのランチをたべているうちに、俺はいつのまにか、目の前に広がる海の眩しいほどのきらめきに恋人の事を重ねてしまったらしい。

――誰も行ったことないような南の島に、一緒に行こうね

 彼のマンションで、一枚のシーツにくるまって、そうゆびきりをしたのはいつのことだっただろう。あれからお互いに仕事が増えた俺たちはすれ違いが多くなってしまって、結局あの時ふたりで夢見たようなこの島に、計らずも俺だけ先にくることになってしまった。
 一度彼の事を意識すると、もう止まらない。彼はいってらっしゃいと見送ってくれたけど本当は拗ねてるんだろうな、とか、帰ったらどうやってご機嫌をとろう、とか、俺が見てるこの景色をそっくりそのまま切り取ってお土産にできたらいいのにな、とか。
 離れていても俺の頭の中は、いとしい恋人の事でいっぱいだ。ひとりで来ているのに、隣には彼がいるような、そんな不思議な気分。

 なんだか遠距離恋愛みたいでそれはそれでいいけれど、やっぱり想像なんかよりも実物に会いたい。早く帰って、お土産を渡して、ひとりで先に行っちゃってごめんね、下見だから怒らないでね。俺、すっごくきれいな海を見つけたんだ。次は今度こそ一緒に行こう、俺が案内してあげるよ――そう伝えて、きらきらの海よりももっときれいな彼の笑顔を間近で見たい。

「……HAYATOに、会いたいなー」

 恋人が俺を呼ぶ声も、隣にいるような気配も全部気のせいなのに、いつのまにか口から零れていた本音だけが現実で。拗ねているのはHAYATOだけじゃなく俺もなのかも、なんてそんなことを思いながら、俺は特別おいしくもない残りのサンドイッチを無理やり胃の中に押し込んだ。





end

改定履歴*
20120812 新規作成

診断メーカーで、『ゆずさんの本日のお題は「指切」、うっそりした作品を創作しましょう。補助要素は「好きな場所」です。』っていう結果がでたのでつい
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