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個人授業 -2-

そんな日常が途切れたのは、あまりにも突然だった。
いや、むしろ本来の『日常』に引き戻されたというべきか。

久々に女王からのお遣いの手紙が届いたのだ。
明日からは、しばらくこの本邸を離れロンドンに滞在して
女王の番犬としての仕事をこなさなければならない。
実に一ヶ月ぶり、執事と恋仲になってからは初めての仕事だった。


『坊ちゃん、明日は早起きになりますよ』
『そうだな…今日はひとりで寝ることにする』
『はい、残念ですがそれがいいですね』
『…セバスチャン、僕はほんとは一緒に』
『大丈夫、言わなくても分かっていますよ。
 一緒のベッドに入ってしまっては、私も我慢できる自信などありませんし…
 事件が解決するまでのほんのすこしの間です、我慢しましょうか』
『…ん』

一時間ほど前――ベッドに入った直後、恋人と交わした会話が思い出される。
明日は朝早くの出発になるし、裏社会ではどんなトラブルが起きるか分からない。
いかに女王の番犬を名乗る悪の貴族といえども、シエルはまだ子供。
体つきも華奢でお世辞にも体力があるとはいえないし、
そのことを自分でもよく分かっていた。

それに、あの日初めて抱かれてからは毎晩のセックスで寝不足気味だったし、
いくらセバスチャンが気遣って優しくしてくれていても体格も体力も違う
大人の男を受け入れ続けて少々無理をしてしまったのか、実は腰も少し痛い。
久しぶりに、大人しく寝るのもいいかもしれない…そう思ったのだ。

なのに実際ひとりで寝ようと瞼を閉じると、
いつも隣に居てくれるはずの恋人がいないことを堪らなく寂しく感じた。
自分で決めたことなのに僕も随分我侭だな、そう自嘲してみても
なにも状況は変わらない。
手を伸ばしても大好きな体温はそこにはなくて、広いベッドにひとりきり。
――このベッド、こんなに広かったっけ。

「セバスチャン…」

ため息まじりに恋人の名を呼ぶ自分に気付いて吐き気がする。
つい10日ほど前まではひとりで眠るのが当たり前だったのに、
僕は何時の間にこんなに弱くなったんだろう。

あいつのきれいな漆黒の髪、真っ直ぐ僕を見る紅茶色の瞳。
抱きしめてくれる力強い腕の力と、繋いだ大きな手から伝わる温もり。
恋人を構成するひとつひとつを思い出すたびに、
それが手の届くところに居ない寂しさは増幅してゆく。

シエルはその寂しさを振り切るように頭を横に振って掛布を頭まで被ると、
背中を丸めて自分のからだをぎゅうっと抱きしめた。






改定履歴*
20110205 新規作成
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