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ねこみみプレイ! -1-

 それは、昨日までの寒さが嘘のようにおだやかであたたかい朝のこと。
 HAYATOとしての仕事を終えたトキヤは、待ちかねた春の陽気にご機嫌で寮へと帰宅した。そして、いつものようにルームメイト兼恋人である音也を起こさないよう静かにただいまの挨拶をすると、エプロンを着けて簡単な朝食を準備しコーヒーを淹れる。ブラックが好きな自分とは違い、お子様舌の音也のマグにはたっぷりのミルクを。そこまでの準備を終え壁の時計に目をやれば、その針は8時ちょうどを指していた。

 早乙女学園はつい先日から平常授業を終了し今は自由登校となっていて、生徒は各自で卒業オーディションに向けて最後の追い込みをしている。だから何もいつもと同じように起きる必要はないのだが、あまり遅くまで寝かせておいて夜眠れなくなるのは体調や肌のためにもよくない。仮にもアイドル候補生なのだからそのへんから自覚を持つべき…との考えから、トキヤは音也にも規則正しい生活をさせるべくこうやって朝食まで作ってあげるようになっていた。
 というのは自分に対して(というのもおかしな話だが)の建前で、一度朝食を準備して彼を起こした時の嬉しそうな笑顔に絆されてしまった…というのが本音なのだが。毎朝あんなに輝くような笑顔が見られるのならば、自分の分を作るついでに音也の分を作るのくらいたいした手間ではないのだ。
 自分にも他人にも厳しい性格のトキヤはあまり認めたがらないが、彼は、唯一この恋人だけはべたべたに甘やかしてしまう癖があった。

「…よし」

 そろそろ起こしてもいい頃ですね、トキヤがそう心の中で独り言をいいながら部屋のカーテンを引いた瞬間、部屋いっぱいに朝のさわやかな光が注いだ。窓を開けてみれば学園の豊かな自然に集まった小鳥の囀りも聞こえる。穏やかな春の陽気に誘われるように、ベッドの上の布団のかたまりがもぞもぞと動いた。

「音也、起きなさい。朝ですよ」

 おはようの挨拶が、あまったるい声になっている自覚はある。声量もいつもよりずっとちいさくて、きっとこれでは起きてくれない。そんなことはわかっていたけど、起こすのが勿体無くもあった。だって可愛い恋人は、今あたたかい布団の中でしあわせな夢をみているのに違いないのだから。

「おとや、」

 予想どおり、未だ夢の世界から帰ってきてくれる様子のない恋人を覆っている掛け布団をそおっと捲ってみる。音也は横向きにくるんと背中を丸めて眠っているようだった。ちらりと見える横顔は少年から青年になりかけのこの時期特有の魅力を宿していて、無防備に空いた口元がとても艶やかだ。やわらかく瞑った目元には伏せた睫毛が影を作っていて…素直に、とてもきれいだと思った。

 早く目を覚まして、あのガーネットの色を宿した大きな瞳で自分を見て、あまえた声で名を呼んでほしい。そう思いながら、空いていた左手で彼の赤毛からのぞくふわふわであたたかな毛並みの耳を撫でる。



 ………。毛並み?
 がばっ、と音がしそうなくらいの勢いで残りの布団を捲ると、そこにはたしかに音也がいて、その頭からは猫とおなじかたちの耳が生えていた。何度目を擦ってみても、間違いない。彼の赤毛よりすこし暗い茶色をした、ふわふわの、あたたかな猫耳。それから、寒そうに自分のからだに巻きつけているのは耳とおなじ色のきれいな毛並みのしっぽ。

「んー…、ぅ…ん」

 突然さらされた空気の冷たさに目を覚ましたのだろう、音也はむにゃむにゃとぐずりながらゆっくりとうつぶせになり、そのまま猫のようにぐっと伸びをした。
 そうして、驚いた表情のまま固まっているトキヤを見上げて、にゃぁ、と挨拶のようにひとつ鳴き声をあげる。いつもはすぐに交わすおはようのキスが貰えないのが不思議なのだろう、彼は小首を傾げてトキヤの袖をちょん、とつついてきた。

「ときや?」
「…おはようございます、音也、朝食ができていますよ」
「ほんとっ? 俺、トキヤのつくってくれたごはん好き!」

 そうだ、何をぼーっとしているのだ。たかが猫耳。猫耳ひとつで取り乱すなんてばかばかしい。何のために音也を起こしたのだ、今だいじなのは猫耳よりも朝食を食べさせて彼に朝型の生活をさせることです――トキヤは混乱したままよくわからない理屈を自分に言い聞かせ、気を取り直していつもの笑顔で挨拶をして、ちゅっと頬にキスをした。

 そのまま、お姫様にするように手を引いてみれば、音也はおとなしく立ち上がって朝食の用意された席につく。目の前にひろがるおいしそうな朝食に目をかがやかせ、くんくんとちいさく鼻を動かす様子が可愛らしい。うんうん、やっぱり当初の予定通り朝食にしてよかった。トキヤは心の中で満足そうに頷いた。彼はすこし疲れているのかもしれない。

「いっただきまーすっ! ん、やっぱりうまい、トキヤは料理上手だねっ」
「それはよかった。今日は日差しが暖かくていい天気ですよ。声の伸びもいいはずです」
「ホント? やったぁ、日向ぼっこもできるかな。…ん、日向ぼっこ…? 俺急に何言ってるんだろ」
「きっと猫だからでしょう。さぁ、カフェオレが冷めてしまいますよ」
「猫…そっか、そうだね! 猫だから仕方ないね。ね、トキヤも一緒にする? 日向ぼっこ。俺とっておきの場所知って……ん、熱っ」
「っ、――音也!」

 『猫だから』そんな馬鹿げた理由を答えを返す自分もどうかと思ったが、すんなり納得する音也が不思議といえば不思議だった。だがそれを深く考える間もなく、そう熱くないはずのカフェオレの温度に驚いた音也の手からマグが滑り落ちそうになる。慌てて身を乗り出したおかげでマグは何とか受けとめることができたが、零れ落ちたカフェオレは音也が着ているパジャマ代わりのジャージを汚してしまった。






改定履歴*
20120223 新規作成
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