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お兄ちゃんはかわいい弟の恋を応援しています! -2-

「…あれから、どうなったかにゃあ」

 一人きりの静かな楽屋に、おはやっほーニュースを終えて着替えも済ませたHAYATOの小さな独り言が響く。あの会話を交わしてから数日、ふたりと顔を合わせる機会もないままにバレンタインデーは過ぎ去り、もう今日は15日だ。
 可愛いふたりは昨日どんな一日を過ごしたのだろう。そのことが気になりすぎて昨日は柄にもなくいつもの時間に寝付けなかった。

 音也を可愛いと思うのは本当。素直で明るくって、声や仕草のひとつひとつから、トキヤのことを本気で好いているのが伝わってくる。そしてトキヤも、好意を隠そうともせず慕ってくれる音也に友情以上の感情を抱いているのは明白だ。こんなにもお互い好きあっているのだからしあわせになって欲しい――そう思う一方で、HAYATOの胸にはひとつの不安があった。

トキヤと音也、ふたりの間に育ってゆくあまい空気に触れるたび、ちくちくと胸を刺すトゲ。いままで無視できていたそれは、あの日音也が告白を決心したのを聞いてから大きくなってしまったように思う。
 ふたりが晴れて恋人同士になったら、きっとトキヤの中での『一番』は、自分でなく音也になる。可愛い可愛い恋人を大事にすることに夢中になって、兄である自分のことなんて、頭の片隅に追いやられてしまうかも。たまのオフやクリスマス、年末年始といったイベント毎に3人で一緒に過ごしていた楽しい時間は、もう訪れないのかもしれない……そう遠くない未来に訪れるであろう3人の未来を想像すると、寂しさできゅうっと胸が締め付けられる。自分で焚きつけておいて随分我侭だなと思ってみても、ぽっかり空いてしまった穴は埋まらない。

「…わがままだにゃぁ」
「なにが、わがままなのですか」
「!!ト、トキヤ?」

 今の今まで自分の頭の中にいた弟が、自分と同じ部屋にいる。予想だにしていなかった出来事に、HAYATOは思わず椅子から落ちそうになってしまった。そんな兄をみてふわりと笑ったトキヤは、持っていた紙袋からひとつの箱を取り出してHAYATOに差し出す。茶色い箱に、きらきら光る赤のリボン。――もしかして、これは。

「先程のオンエア、見せていただきましたよ。少し疲れがたまっているようですね。これをどうぞ」
「これ…」
「……昨日はバレンタインデーでしょう?最近では感謝の気持ちを込めて同性に渡す風習もあると聞いて、あなたの顔が浮かびました」
「トキヤが誰かからもらったものとか?」
「私も信用がないですね。…そんなことしません」
「信用、してないとかじゃなくて、――っ」
「ちゃんとあなた用に選んだんですよ。好きでしょう? 甘いミルクチョコ。ああ、それから…音也が、今夜仕事が終わったらあなたの家に遊びに行きたいって言っていましたよ」
「音也くんが?」
「ええ。お礼をしたいんだそうです。もちろん私からも」
「え」
「…色々と、音也がお世話になっていたそうで」

 聞かなくてもわかる。トキヤと音也は、きっと昨日うまくいったのだ。今までに見たことのないようなやさしい顔でふわりと笑う弟の表情に、HAYATOは確信した。きっと素直な音也がHAYATOに勇気をもらった事をトキヤに告げ、律儀な彼は確実にHAYATOが局にいる時間に礼を言いに訪れたというところだろうか。メールではなく直接顔を見て感謝の気持ちを伝えるところが、とてもトキヤらしい。
 でも、それなら、いつの間にチョコを買ったのだろう。アイドルという職業上、バレンタインにオフなんてあり得ないから想いを告げたのは夜中だろう、そうして、今は朝8時にもなっておらず店は開いていないはず…。

「トキヤ、これ、ボクの為に準備してくれてたの…?」
「? そう言っているでしょう? 本来なら昨日渡したかったのですが、生憎仕事が早朝から入っていて…すみません。さぁ、ご都合はいかがですか?」
「そんなのっ、いつだって歓迎するに決まって……、っうれしいにゃあああぁ」
「わ、こらっ」
「ぅわぁぁぁんトキヤトキヤときやぁぁ」
「ちょ、苦し…です、HAYATO、わかったから…というか、どうしたんです、あなたがこどもなのは知っていましたがいつも以上にこどもですよ…!」
「だってだって…うれしいんだにゃ、ふたりが恋人同士になったら、もうボクは仲間はずれになっちゃうんじゃないかっておもってたから…」
「はぁ、馬鹿ですね」
「ひどいにゃあっ」

――嬉しい、うれしい。トキヤはボクの事を忘れていなかった。それどころか、わざわざチョコレートを選んで、準備して…。

 もうトキヤのこころの中に自分の居場所はなくなってしまっていたのではないか。ほんの少しだけそんな風に思っていたHAYATOにとって、トキヤからのチョコレートは特別なものだった。思わずぎゅうっと抱きついてわんわん泣いてしまうと、トキヤは呆れた声で優しく頭を撫でてくれる。

「ばかですよ。たとえ誰と付き合おうとも、あなたは私の大切なたった一人の兄弟なんです。ずっとずっと、一緒ですよ」

 片手でHAYATOの髪を撫で、空いた手ではぽんぽんと背中を叩きながら、トキヤはHAYATOへの想いを紡ぐ。こんなときのトキヤの声は、普段のものよりほんのすこしだけあまいものになる。ちいさなころから変わらないその優しい響きに、また涙が零れた。



「……ときやぁ、どうしよう。ボクこのチョコレート食べられないかも」
「なくなったらまた買ってあげますから、ちゃんと食べて元気充電しなさい」
「もう充電完了できたにゃ。トキヤが来てくれたおかげだよ」
「…そうですか。それはよかった。ではまた明日から、とびきり元気な『HAYATO』のおはやっほーを聞かせてくださいね?」




end

改定履歴*
20120206 新規作成

バレンタインにトキヤにチョコを渡したいけどカロリー系男子だからだめかな…って迷う音くんを、●ーナのCMのように勇気付けるHAYATO→ハヤトキ兄弟愛が書きたかったのです。
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