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秘密 -4-

 季節は巡り、春。一ノ瀬家の玄関先には、真新しい服と靴を身につけたトキヤとハヤトが、まだ成長途中の華奢なからだに不釣合いな程大きなスーツケースをそれぞれ持って緊張した面持ちで立っていた。じんわりと涙を浮かべたふたりの視線の先にいる父親は、そんな我が子たちの成長に目を細める。

「……ふたりとも、おおきくなったなぁ」

 可愛い宝物の姿を目に焼き付けるように暫くその姿を見つめた後、満足そうにそう言ってふわりと笑った。双子によく似た、優しい笑顔だ。トキヤとハヤトは、大好きな父の笑顔に我慢できず一斉に抱きついた。

「おとうさん」
「もうちょっと、一緒に暮らせると思っていたんだけどな。ちょっと寂しいけど、お父さんも我慢しないとな」

 大きな腕はそんなふたりをそっと抱き寄せ、宥めるようにぽんぽんと背中をたたく。この大きなやさしい手のひらとしばらくお別れなのかと思うとどうしようもなく寂しい。きっと以前のふたりであれば、人目も憚らずにわんわん泣いていただろう。けれど、トキヤとハヤトは、一緒に東京へ行くと決めた時に、自分たちの意思で家を出るのだからお別れの時には泣かないと約束をしていた。

「ハヤト、毎朝おまえの笑顔に会えるのを楽しみにしているよ」
「…うん! おとうさんが見てくれてるって思ってがんばるにゃ」
「トキヤ、おまえもいつか、歌う姿を見せてくれるとうれしいな。お兄ちゃんをよろしくな」
「はい。おとうさん、ありがとう」
「ふたりともからだに気をつけて、しっかりがんばっておいで」

 ひとすじの風が吹き抜け、満開のさくらの花びらが舞う。ひらひらと舞い散るピンクの花びらは、まるで双子の新しい門出を祝ってくれているようだった。



 ハヤトはあれからオーディションを受け、見事主役の座を勝ち取った。所属事務所の社長も、レッスンの講師もおめでとう、さすがハヤトだねと褒めてくれた。母親は手放しで喜んでくれたし、父親も寂しくなるなとは言いながらもハヤトの夢を応援してくれた。4月から始まる本番を前に色々覚えることもある。だから、卒業を待ってハヤトは事務所が用意してくれたマンションに引越すことになったのだ。――トキヤも一緒に。

『ボクに考えがあるんだ』

 あの時そういったハヤトは、言葉巧みに周りの大人を説得した。ボクたちはいつか、ふたりでテレビに出たい。トキヤも一緒に東京へ行って、ふたりで夢を叶えたいんだ、と。事務所の社長はもちろんトキヤのことも気に入っていたし、幼いころのように双子がユニットを組むことを夢見て、用意したマンションにトキヤも一緒に住むことを許可してくれた。そして、レッスンにも通わせてくれるとも。トキヤは心から感謝して、いつか恩返しをしようと心に決めた。

『一人では無理なことだって、二人でなら乗り越えられるから、お願い』

 最後までトキヤを手放すことを決心しきれずにいた母親だったが、ハヤトのこのひとことが、胸に響いたらしい。暫くは自分が東京と福岡を行ったりきたりして世話をするとは言え、ハヤトを一人東京に送り出すのは心細かったのだ。食事や洗濯はどうにかなっても、慣れない仕事で心が疲れることもあるだろう。その時に自分が毎回駆けつけられればいいのだが、そうもいかない。きっとこれから成長すれば思春期になり、自分には悩みを打ち明けてくれなくなるかもしれない――けれど、もしトキヤと一緒なら。彼らは本当に仲のいいきょうだいだから、うまくやっていってくれるかもしれない。そう思ったのだ。



 そういうわけで、トキヤとハヤトは東京で一緒に暮らし始めることになった。学校は事務所が用意してくれた芸能人やその予備軍が多く通う、信頼の置けるところ。普段はそこにふたりで通い、ハヤトはおはやっほーニュースを初め色々な仕事に、トキヤはレッスンに通う傍ら、家事をこなした。母親がハヤトの仕事について留守にする事も多かったのでトキヤは料理は得意だったし、なにより、自分の作った料理をハヤトが喜んでくれるのが嬉しかった。ハヤトのマネージャーもよく双子のことを気にかけてくれるいい人で、中学生ふたりの生活と言えども全く不自由はなかった。

 仕事や学校、レッスンでどんなに疲れている日も、トキヤとハヤトはお互いの顔を見るだけで元気になれる。ちょっと難しいかなと思われる課題でも仕事でも、ふたりで協力して解決してどんどん成長していける。初めは心配してよく訪れてきた母親も、そんなふたりの様子を見て安心したのだろう。一年程経つ頃には、訪問回数もめっきり少なくなっていた。






改定履歴*
20120120 新規作成
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