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秘密 -2-

 双子とはいえ、性格の違いはあるようだ。ハヤトはトキヤのように学校で疎外感を感じてしまうこともなく(元々、トキヤだって苛められた訳ではない。ただ、彼がほんの少しだけハヤトよりも繊細で内気だったのだ)クラスに溶け込み、トキヤの分も仕事を頑張った。

 しかし、子役というものは案外難しいのだ。当然だが人は日々精神的にも肉体的にも成長する。そして新しい知識をひとつ知るたび、身長が1センチ伸びるたびに、なにもしらなかったころのかわいらしさが減ってゆく。それは人として当然の成長なのだが、監督やプロデューサーは子役に「子供の純粋な可愛らしさ」を求める。可愛く愛らしい子役希望者はそれこそ掃いて捨てる程いて、何も無理にひとりに決める必要なんてないのだ。いくら美しく賢く成長しようとも、「子供」ではなくなった時点でキャスティングの対象からは外されてしまう。

 ハヤトも例外ではなく、年齢をかさねてゆくごとに仕事はすこしずつ減ってしまっていた。飛行機に乗ることも少なくなった。母親はそのことをそれなりに気にしていたようだったが、ハヤトは違った。

「ハヤト、今週は東京いかないんですか?」
「うん行かなくてよくなったにゃ〜。トキヤといっしょにあそべるね」
「ほんと…? あさから、よるまで一緒?」
「うん、あさからよるまで、ずっとトキヤといっしょ!」

 仕事が減ったからといって落ち込んだり腐ったりすることは一切ない。むしろ、彼の笑顔の輝きは増していった。理由は簡単、トキヤと一緒に過ごせる時間が増えるからだ。一緒に学校に通ったり、放課後に寄り道をしたり、並んで宿題をしたり。普通の兄弟ならばなんでもないような日常のひとつひとつが、ハヤトにとっては宝物のような時間だった。

「うれしいです、ハヤト」
「ボクもうれしいにゃあ」

 ちゅっと可愛らしい音をさせて、ハヤトのくちびるが、トキヤの頬に触れる。彼らの母親は、可愛い我が子によくこうやってキスをして可愛がっていたから、彼らは物心ついた頃にはそれを真似するようになった。こうするたびに、ふたりの絆がふかまっていくような気がしていた。
 仕事のせいで時に不規則になりがちなハヤトと、ごく普通の規則正しい生活を送るトキヤには、互いに邪魔にならないようにと各々にこども部屋が与えられていたのだが、そんなの関係ないとばかりにふたりは常に一緒にいた。本当に、見ている周りが和んでしまうくらいに仲のいい兄弟だったのだ。



 ハヤトとトキヤが小学校6年生の冬のある日、ハヤトに久し振りの東京のテレビ局での仕事が舞い込んだ。ちょうど春休みだったこともあり、母親はトキヤも一緒に連れて行くことにした。もしかしたらこれが最後の東京での仕事かもしれない、それならば、今まで仕事を一生懸命にがんばったハヤトと、可愛いもうひとりの子供であるトキヤと3人で、記念にテーマパークにでも行こうかと思ったのだ。収録の日は仕事がある父も、テーマパークに行く翌日には東京に来てくれることになった。ハヤトはもちろん、留守番をするのに慣れていたトキヤも、家族4人での旅行に目を輝かせて喜んだ。

 双子は、暇さえあれば買ってもらったテーマパークのガイド本を開いて、あれに乗りたい、これにも乗りたいねと仲良く話していた。ふたりの屈託のない笑顔に、少しだけ気落ちしていた母親も、もしかしたらそう遠くない未来に訪れるかもしれないハヤトの引退を少しだけ前向きに受け入れ初めていた。
 この子を芸能人にしたい、その一心で夢中になりすぎて、こんなにも仲のいい兄弟が一緒に過ごす時間を奪っていたのかもしれない。ハヤトが普通の小学生になったならば、普通の兄弟として過ごす時間が増えるだろう。それは、ハヤトにもトキヤにとっても、いいことなのだろう――そう思って。






改定履歴*
20120119 新規作成
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