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秘密 -14-

 掛けられた言葉の意味を理解できず一瞬固まってしまったトキヤのくちびるを、音也のそれが塞ぐ。唇を閉じることすら忘れているトキヤの口内にぐっと舌を入れた音也が、初めて味わうあまい舌に我慢ができずきゅっと強く吸うと、それまで硬直していたからだが思い出したかのようにびくんと跳ねた。

「――ん、ンッ!…っぷは、はぁっ」
「トキヤ、お前の舌、あまいね…?」
「なに言って…、離しなさい、音也!」
「やだ。……もっかい、しよ?」

 先程までトキヤの頬に添えていた音也の片手は、いつのまにか男性にしてはほっそりした手首を掴みベッドに縫い付けていた。そうして、腕の中の獲物が大した抵抗もできずにいるのをいいことに、首筋に噛み付くようなキスをする。そのまま耳へと舌を移動させ耳朶を舐め上げ、空いていた手でトキヤの後頭部を強く引き寄せて再び唇を塞ぎ、舌を絡めて。時間が経つにつれて押さつけている腕から抵抗する力が抜けてゆくのを確認すると、今度は後頭部に回していた手を服の裾から内側へと侵入させた。

「や…、嫌です、…っあ、や、」
「おねがい、嫌って言わないで。いいこだからじっとして、ね…?」

 嫌な、筈なのに。それを伝えた瞬間に寂しそうな視線で請われると、拒否できない。
 一年近くをルームメイトとして過ごし、それなりに情が移ってしまっていたトキヤは、音也のあたたかい手のひらを払いのけられずにいた。
 そうするうちに、なめらかな肌を滑るように撫でていたそれが腰の辺りに移動する。音也のてのひらから与えられる刺激にびくびく反応してしまう自身のからだにかぁっと顔が熱くなって思わずふいと横を向くトキヤの初心な反応に気をよくしたらしい音也は、トキヤの頬に嬉しそうにちゅうっとかわいらしい音をさせてキスを落とした。

 ハヤトのキスによく似たそれが、トキヤの脳をほどよく溶かしてゆく。もしこれが兄だったらどんなに嬉しいだろう。ハヤトと数え切れないキスをするうちにいつのまにかこころの底で望んでいた、キス以上のことをしてくれるこの相手が、自分の大好きな兄だったら。トキヤはいつのまにか、そんなことを考え始めてしまっていた。




「すき、すきだよ、トキヤ。誰よりも」


 きゅっと目を瞑って想像の中の兄に抱かれることを半ば受け入れようとしかけたトキヤに、音也がありったけの愛情をこめてそっと囁いた言葉。皮肉にもそれは、どうか自分を受け入れてと音也が願ったものとは全く逆の効果を招いてしまった。
 
 『誰よりも好き』――それは、トキヤが大好きな兄に伝えたくて、そして、伝えて貰いたい言葉だった。けれど自分たちは兄弟だからそれを望むことは到底許されない。だからせめて、他の誰からもその言葉を聴きたくなかったのに。



「――やめてください!!」

 気付けばトキヤは、精一杯のちからで音也のことを跳ね除けてしまっていた。驚いて目を丸くした後、しゅんと眉尻を下げる音也に若干の罪悪感を覚えるものの、それよりもどきどきと胸が高鳴ってくるしくて仕方ない。

「トキヤ」
「触らないでください、嫌です、嫌…っ」

 いつの間にか頬を伝い落ちていた涙を拭おうと伸ばされる手も、今は受け入れることがでず、トキヤはいやいやをするように首を横に振ることで音也との接触を避けた。

「俺のこと嫌い?」
「違います、そうじゃなくて、〜〜わたしは、ハヤト、が、」
「……HAYATO以外は嫌ってこと?」

 必死に隠してきた兄への気持ちをもう誤魔化せないと思ったのだろう。たっぷりの間の後、こくんとちいさく頷くトキヤの仕草に、音也の胸がずきずきと痛む。トキヤの気持ちを知りたい、それはずっと願っていたことだったのに、実際に自分ではないほかの誰かを思っているということを突きつけられて、頭の中が真っ白になる。

「ね…え、トキヤ、じゃあなんで、HAYATOに好きって言わないの?」
「そんなかんたんなことじゃないんです、私達は男同士で、きょうだいで、だから」
「お前はそうやって理由を並べるけど、結局『好き』って言うのを我慢できるんだろ? 俺は我慢できない、お前のことが、好きで好きでたまらないよ」
「からかわないで下さい!」
「からかってなんかないよ!! HAYATOだって、好きを我慢できるくらいにしかお前のこと想ってないよ」

 今度は、音也が罪悪感を覚える番だった。トキヤは、音也の言葉に反論することもできずに深い藍の瞳いっぱいに涙を湛えたまま時間が止まったように動けずにいる。幾度目かの瞬きの瞬間にその透明の雫がぼろぼろと零れ落ち、枕を濡らした。自分で拭うこともできずにいるのに、音也には決して触れさせてくれない。
 音也は、このまま気持ちを伝えても無駄だと頭の片隅で理解していたが、ここで止まることもできなかった。

「ごめん、言い過ぎた。…でも、そうだよね。HAYATOもトキヤも、自分の気持ち言ってないんでしょ? ね、おれだったら、何度でもお前にすきって言うよ。言わないと気がすまないくらいに好き。それから、メールなんかじゃなくてずっとお前の傍にいてあげられる。…っていうか、傍にいたい」
「メール、って、」
「うん、ごめん、実はギター弾きながらもお前のことたまに見てたんだ。携帯見て、お前がすごく嬉しそうな顔してたのが印象的で……俺だって、ああいう風にお前のこと笑わせたいよ。ふわって笑うお前の顔がすごく好きなんだ。あぁもう、何て言っていいかわかんないくらいトキヤのことがすきだよ。ねぇ、…俺じゃダメ?」
「だめ、です…」
「――っ、俺は言葉にせず我慢できるような想いに負けてるの…?」

 トキヤの頬に、ぽたりと涙が落ちる。トキヤが驚いて自分を見上げてくるのに気付いて、ようやく自分が泣いているのに気付いた音也は、目元をごしごしと手の甲で擦ると、ようやくトキヤの上から退いてベッドに座り込んだ。

「……ことばにすることが、いちばんすごい想いの表現方法だなんて思わないでください」
「っ違う、俺は」
「相手のことを想うから、言葉にできない関係だってあるんです」

 音也の涙に一切動揺しなかったわけではない。けれどそれでも、この好機を逃せる訳はなかった。トキヤはじっと自分を見つめてくる赤から目を逸らしたまま、そこまでを一気に口にすると、寝起きでうまく動かないからだを叱咤してベッドを抜け出し、簡単に着替えをする。そうしてそのまま、準備してあったバッグを持つと玄関へと繋がる扉へ手を掛けた。

「トキヤまってどこいくの?」
「あなたに教える必要はありません」
「まって、ねぇトキヤってば!」

 自分の名前を呼ぶ音也の声が、震えているのがわかる。そうして、また自分の声も。いつもだったら立ち止まって振り返って、しゅんとなっているルームメイトを宥めてあげるのだけれど、そんな余裕なんて一切なかったトキヤはそのまま部屋を出た。







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20120326 新規作成
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