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秘密 -10-

 初めに言っておくが、音也とトキヤの間には特別な関係も出来事も、一切ない。音也は人懐こく感情豊かで、それを躊躇なく相手に伝えてしまえるまっすぐな性格の持ち主であった。同室のトキヤには特によく懐いていて、こうやって抱きつくのもそうめずらしいことではない。

「び、びっくりした…というか、音也、急に抱きつくのはやめなさいといつも言ってるでしょう」
「えへへごめん、俺嬉しくてつい」
「嬉しい?」
「うれしいよっ! 俺のとこに帰ってきてくれたーって。すっげぇ嬉しいっ!」
「俺のとこって…ここは私の部屋でもあるんですよ、当然です」
「そうだけど、でもトキヤがいないの寂しくて」
「何をこどもみたいなこと言ってるんです、大体私がここを空けるのはいつものことでしょう」
「だってトキヤ最近はずっと俺と一緒にいてくれたし、お兄さんのとこ行くの久し振りだったじゃん。久々にひとりで週末過ごしてみたら、もう寂しくて仕方なくて」
「それは、卒業オーディションや課題があったからで、別にあなたと一緒にいたわけでは……はぁ、まぁいいです」

 彼はトキヤより身長が4センチほど低いのだが、身振り手振りの大きさでそんなことは微塵も感じさせない。さらに運動が得意で大好きといういうこともあり、きっとトキヤより力も強い。よって、こうやって抱きつかれると、トキヤの意思だけではその腕から逃れるのは困難なのだ。

「あ、トキヤここ雪ついてる。寒かったでしょ」
「……ありがとうございます」

 遠慮なく抱きついてくる大型犬を躾けなおす為には、早急に腕を離しなさいと言わなければいけないことは解っていたけれど、寝起きの彼の体温はいつも以上にほかほかとあったかくて、トキヤはついその腕にからだを預けてしまった。

「? …トキヤ?」

 こてんと首を預けて、音也の背中に腕をまわす。手はいつの間にか、よしよしと頭を撫でていた。音也はトキヤのいつもと違う反応に驚いたようだったが、それも一瞬。撫でてくれるトキヤの手に気持ち良さそうに目を細めて、トキヤの首筋に顔を埋める。

「音也、それよりもう起きていたのですか?」
「――…あ、…うん」
「? どうしました」
「な、なんでもないよ、…っあの、ごめんトキヤちょっと離れて…」

 心地よいあたたかさを目を瞑って堪能していると、不意にがばっとからだを引き離される。途端に冷えた空気がトキヤの全身を包み、彼は少しだけ身震いしてしまった。急にどうしたのだろう、そう不思議に思って先程まで自分を抱きしめていた音也の表情を伺うと、彼はさっきまでの嬉しそうな表情から一変、悲しそうに眉を下げてしまっている。

「…? やっぱり具合でも悪いのですか、あなたがこんなに早く起きるなんて」

 音也の体温をあたたかく感じたのは、単純に自分が外から帰ってきて体が冷えていたからだけではなくて、彼が風邪を引いて熱があるのだろうか。そう思ったトキヤは、音也の額に自分の額をこつんとくっつけてみる。

「熱はないようですが…これではわかりませんね、体温計で計りましょうか」
「わ、いい、いいよトキヤ、大丈夫だって」
「大丈夫、じゃないです。そんなに情けない顔をしているあなたは初めて見ました。風邪でもひいているのでしょう」
「いや、違くて…」

 困ったように視線を彷徨わせた音也は、トキヤの視線から逃げるように俯いてしまったが、一瞬の後に顔を上げた。その瞳に宿っているのは、ひとつなにか決心をしたかのように強い意志だ。何だろうと思う間もなく、またトキヤは音也のあたたかい腕の中に引き込まれて抱きしめられてしまう。






改定履歴*
20120216 新規作成
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