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わんこのきもち -3-

「――也、おとや」
「…」
「音也? ごはんできましたよ?」

 そんなことを考えていたら、随分時間が経っていたらしい。晩ごはんの支度を終えたトキヤが、エプロンを外しながらソファに蹲っている俺を迎えに来てくれた。

「…どうしたんです、気分でも悪いんですか?」
「ちが…ごめ、」
「音也」

 いつのまにか零れてしまっていた涙を拭いながら俺の名前を呼ぶトキヤの声が、すごく困ってるのがわかる。当たり前だよね、さっきまでぶんぶんしっぽ振ってたペットが、途端にしゅんとしてご主人様の目もみないんだもん。ペットならペットらしく、可愛く…はできているかわかんないけど、とりあえず忠実でいなきゃいけないのに。そんなこともできないペットはすてられても仕方ないのに。

「ときや、ごめ…」
「理由、教えてくれますか? でないとあなたを慰めてもあげられない」
「――っ、」
「ね? おねがいします。あなたの泣き顔はみたくないんです」

 だめ、だめだ。トキヤをこれ以上困らせちゃ。…トキヤがどう思ってるのか知るのは怖いけど、ちゃんと聞かれたことに答えないと、余計に面倒に思われてしまうかも。

「あ…のね、トキヤ。俺って、トキヤの負担になってる?」
「…は?」
「ペット、ってね、飼い主に全部世話してもらって、自分は楽してるだけっていうか、その」
「…」
「うまく、言えないけど…、俺、トキヤにたくさんしあわせもらってるのに、なにも返せてない気がして、それで、なんか、不安になっちゃって…」
「何も、返せてない?」
「う、ん。しかもよく歌うからうるさくて、トキヤの邪魔かもしれない、し…。だからいつか、トキヤにいらないって言われたらどうしよって…あの、ごめ、泣き顔、見たくないっていわれてるのに、いっぱい泣いてちゃって、俺…っ、でもね、あの、俺、ずっとトキヤといたいよ。捨てられたくないんだ。だから俺にできること、おしえて…?俺、がんばるから…、ね、トキ」

 言葉を口にすればするほど、一緒になって零れ落ちてしまう涙が煩わしい。これのせいで、すらすら言葉がいえないよ。ひっかかりながらもなんとか気持ちを伝えて、トキヤ、って名前を呼ぼうとしたんだけど、それは最後まで言えなかった。だって、トキヤのくちびるで、ふさがれてしまったから。

「ん、…ふ…っ、はっ、はぁっ」

 なんで?うるさかった?ごめん、トキヤ。いいこにするからきらいにならないで…。そう思った瞬間、唇が離れて、そのままぎゅうって抱きしめられた。いつもの、ふわってやさしいハグとはぜんぜんちがう、男のトキヤのちからだ。

「とき、や…?」
「…私が浅はかだったせいで、あなたをこんなに泣かせてしまって、ごめんなさい」
「〜〜っ、ううん、ちがうよ、トキヤのせいじゃない、俺が」
「音也、ペットを飼ったことはありますか?」
「ううん…」
「そうでしたか」

 抱きしめられた腕のちからとは真逆の、優しい声が耳元で響く。そっと腕のちからが緩んで、そのまま背中をぽんぽんと撫でられた。まるで、泣きじゃくるこどもを宥めるみたいに。

「…ペット、と言っていたのは、あなたのことがかわいくてしかたないからです」
「へ…?」
「かわいくてかわいくて、どんなに疲れていても、あなたの顔を見れば元気を貰える。無条件にいとしいと思う。あなたを全力で大事にするから、だから傍にいてほしい。私にとってあなたはそんな存在です。その気持ちをうまく表現できることばがみつからなくて、それで、ペット、と」
「じゃ…じゃあ、役立たずって意味じゃ、ない…の?」
「勿論。あなたは先程、自分は何も返せていない、と言いましたが、そんなことありません。私だって、たくさんのしあわせを貰ってますよ」

 うそみたい、だ。でも、トキヤはHAYATOのこと以外で俺に嘘をついたことなんて一度だってない。だから、その言葉を信じていいんだよね?トキヤが俺に傍にいて欲しいっていってくれたこと、うそじゃないんだよ、ね…?

「では、ひとつ白状しましょうか。毎朝私は収録に行く前に、あなたの寝顔にキスをしてるんですよ。知ってましたか?」
「…しらなかった」
「あなたはよく寝ていますからね…。毎朝、あなたにキスをして。一日がんばるだけの元気をもらっていたんです。役立たずだなんてとんでもない、HAYATOと一ノ瀬トキヤの二重生活をなんとかこなせているのは、あなたのおかげですよ。音也」

 ――俺のおかげで、がんばれる。トキヤは、今そう言ったよね?邪魔じゃないって、元気になれる、…しあわせを、もらってるって。
 あまりにもうれしい言葉を貰えてそれをうまく飲み込みきれなかった俺を見て、またトキヤは仕方ないですねってわらってくれる。あぁ、やっぱり俺はこの笑顔がすきだ。ふわふわの、あまったるい、俺だけにみせてくれる笑顔。

 ねぇトキヤ、トキヤ、ばかで単純な俺は、お前がくれた言葉をもうすっかり信じちゃったよ。ペットでもなんでもいいよ、キスだってなんだって、お前が望むならいくらだって。だからずっと傍にいさせてね?だいすきな、俺だけのご主人様。




end

改定履歴*
20120226 新規作成
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