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わんこのきもち -2-

 コツコツと、廊下に響く静かな足音が耳に届く。俺はそれと同時に読んでいた雑誌をぽいっと放って玄関へと直行した。トキヤの靴音、いつから聞き分けられるようになったんだろう。俺の耳って意外と高性能なのかも。あ、もしかしたら進化したのかな?トキヤと俺がもっと仲良くいられるようにって。
 とにかく、部分的に性能のいい俺の耳に感謝したい。だってそのおかげで、ドアが開いた瞬間、俺のだいすきなトキヤのきれいな髪の色が見えるか見えないかのときに、俺の指先はその肩に届くことができたんだから。

「トキヤ…っおかえり、おかえり!」
「わ…っ」

 そのまま飛びつくようにぎゅうって抱きついて、首筋に顔を埋める。トキヤは俺と同じ男なのに、すごくいいにおいがする。それをおもいっきり吸い込むと、昨日の夜からずっともわもわしていた不安がとけて不思議なくらいに心が落ち着くのがわかった。

「こらっ、玄関先で飛びつくのはやめなさいといつも言っているでしょう!」
「えーだって…トキヤが早く帰ってきてくれたのがうれしくて」
「もう、ばかですね」
「ごめんなさい」

 ――トキヤ、トキヤ、俺イイコで待ってたよ。だから撫でて、俺のすきな、そのおっきくてきれいな手で撫でて?

「……ただいま帰りました」

そう思ったのが伝わったのかな、トキヤは仕方ないなって感じで笑って手袋を取った手で俺の髪を撫でてくれた。テレビでみんなに見せてる、『HAYATO』の笑顔じゃない、俺にだけ見せてくれる、ふわっとした笑顔。俺はこれがすっごく好き。トキヤの整った顔はいつ見てもきれいだけど、このときの表情がいちばん好き。胸がきゅうってくるしくなって、いつまでも見ていたくなるよ。ただ、なんだか恥ずかしいからすぐに目をそらしてしまうんだけど。

「さぁ、食事を作りますから離してください」
「あ、じゃあ俺も手伝うよっ」
「大丈夫です、課題でもやっていなさい」
「ええー…ひとりはさみしいよ、トキヤぁ」

 結局、昨日寝付けたのは何時くらいだったんだろう。随分遅かったような気がする。長い長い夜が明けて朝が来て、携帯のアラームで目を覚ました時にはもうトキヤはおはやっほーニュースの収録に出かけていた。いつもなら一旦ここへ帰ってきて朝食を作ってくれるんだけど、たしか今日はおはやっほーニュースの後に雑誌の取材が入ってるとかで、そのまま学園へ行ったんだ。だから、顔を合わすのは昨日の夜ぶりだ。
 なのにすぐに離れ離れになるのは寂しいよ。邪魔しないから傍にいさせて?

「全く…あなたは本当にペットみたいです」
「――っ、ぁ」
「おいしいごはん、つくってあげますから。いいこにしててください、ね?」
「…はい」

 『ペット』っていうことばに、どくんと心臓が高鳴った。それまでトキヤに一日ぶりに会えてはしゃいでたこころが、さぁっと冷めていってしまうような気分が、する。
 だめだ、トキヤの邪魔しちゃ。だってトキヤは朝早くから仕事に行って、学校に行って、そしてきっとまた仕事をして帰ってきてる。俺の何倍も疲れているはずなのに、ごはんまで作らせてしまって、それだけでももう申し訳ないのに、さらに邪魔して怒らせてしまったら――…

 トキヤは俺にたくさんのものをくれる。愛情とか、おいしいごはんとか、しあわせな時間とか。俺は、トキヤになにか返せているんだろうか?とりあえずごはんは作れない。愛情はあるよ、これは自信持っていえる。けれどそれだって、トキヤが望んでいなければ押し付けがましいだけだ。
 どうしようどうしよう。こんな手のかかる子は要りませんって、いつか、いつかポイって捨てられてしまったらどうしよう。






改定履歴*
20120226 新規作成
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