学園長に元に戻す方法を聞いてきました
昼寝から目を覚ました私たちは、この不思議な現象を起こした当事者であろう学園長先生の元に赴きました。証拠はありませんが、この学園で起こる不思議な現象の10割、つまりすべてはあの学園長の仕業です。その確信がありました。
そうして、そこで得られたのは、あの白い煙はやはり学園長の仕業だったということ。それから、元に戻る方法です。
『簡単デース。いつの時代も、お姫様にかけられた魔法は王子様…つまり、YOUが想いを寄せる人のキスで解けるのデース!!』
全くもって意味がわからないことを至極真面目に言う学園長先生は、それ以上のヒントをくれはしませんでした。キスで魔法は解けるのだと、その一点張りで。仕方なく私たち2人は寮に戻ってきたのです。
「だーかーらー、トキヤ、教えてよっ!トキヤの好きな人!」
その帰り道からずっと、音也はこの調子です。制服の胸ポケットに入れた私に向かって、好きなひとは誰なのだと、そればかり。今だって、また先程までと同じように私をベッドに座らせて自分は床に座り、視線をあわせて『教えて』のおねだりは続いているのです。
「そんなのっ教えられるわけないでしょう」
「てことは、いるんだ」
「…べつに、ひとりくらいいてもおかしくはないでしょう!私だって健康な16歳の男子です」
「おかしいなんて言ってないよ!ただ、トキヤがそういう素振り見せたことないから驚いただけで」
居ます。居ますよ好きな人くらい。というかそれはあなたです。でも絶対に言えません。私があなたを好きなのは絶対に伝えるわけにはいかないのです。だって一年間を共に過ごすルームメイトなのですよ。拒否されたらこれからどんな顔をすればいいのかわかりません…。私は普段照れ隠しもあって強がっているようにしていますけど、内心はあなたに嫌われるのが怖くて仕方ないのです。
「教えてよー」
「嫌です!なんであなたに教えないといけないんですか」
「だってトキヤ、その人にキスしないといけないんだよ?俺が連れてってあげるから!」
……それは、そうなんですけど。本当にキスしないと元にもどらないんでしょうか。そうなると少々厄介です。…音也が眠っている間にそっとキスをして、なんだかわからないけれど元に戻った、と言い張るほかないでしょう。
「テレビ局の人?」
「ちがいます」
「地元にいる初恋の人とか?」
「そんなのいません!」
「ねぇねぇトキヤ〜教えてよー!」
「………」
教えません。教えません。絶対に教えません!とにかくこのうるさい犬ころの教えて攻撃をどうにか今日一日やり過ごして、夜になるのを待ちましょう。そうすれば私の計画通りに事を運ぶのはそう難しくはありません。
「ちぇ、ケチー」
「ケチでもなんでもいいです内緒です」
「おれ、トキヤが誰かとキスするのやだな」
「え?」
「…うん、やだ。やだよ!トキヤのファーストキスが俺以外の誰かとなんて絶対やだ!」
「は…??」
「トキヤ、じっとして。トキヤのはじめて、俺にちょうだい」
音也のあたたかい手が、私のからだをそっと包みます。手のひらのうえに座らされて、音也の顔が近づいて。一体彼はなにを言っているのだろう、『トキヤのはじめて、ちょうだい』って、それって、まるで――…
突然の告白に思考が追いつかないでいると、ぐっと近づいてきた彼のくちびるが、私の頬にほんの少しだけ、触れてしまいました。その瞬間、昼間レコーディングルームで見たものと同じ白い煙があたりを包みます。
「戻った、ね……」
「……戻って、しまいました」
音也のベッドの上、全裸の状態で元の大きさに戻ってしまった私は、混乱する頭で今度はシーツを身体に巻きつけるのでした。
『魔法は王子様…つまり、YOUが想いを寄せる人のキスで解けるのデース!!』
ああ、学園長の言葉が、私と音也、ふたりの間にふわふわと浮いているような気がします。そうして、元に戻った私を呆然と見上げていた音也の頬に少しずつ赤みがさしてきている、ような。
もしかして、必死に隠していた私の気持ち……気付かれてしまいましたか?
end
改定履歴*
20120111 新規作成
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