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着替えの代償

こどものように泣いて、自分よりずっと子供だと思っていた音也に、優しく宥められて。ようやく少し落ち着いた頃に、また部屋のドアがノックされる音が聞こえました。続いて聞こえたのは、七海君の声。今度は、さっきと違って控えめで優しい彼女らしい声です。きっと彼女も、少し時間がたったことで落ち着いたのでしょう。

「これって…、HAYATOのステージ衣装?」
「あの、急いで作ったのでうまくできていないかもしれないのですが」

それはいいのですが、着替えを持ってくると言って出て行った七海君が持ってきた物を見て、私は目を疑いました。彼女が手にしていたものは、見慣れた『HAYATO』のステージ衣装だったのです。それも、今の私にぴったりのミニチュアサイズで。

「すっげー!七海、これどうしたの?」
「よりによってなんでこんな」
「ご、ごめんなさい!どんな服がいいかなって考えていたら手が勝手に」
「って、ええっ、これ七海が作ったの!?すごいよ!」
「こういうの作るの、好きなんです」

好き、とかそういうレベルの問題でしょうか。だってこれは、生地も細部の作りまでも本物のHAYATOの衣装とそっくりです。あの衣装の仕様なんて公開されていないのに、ここまで緻密に再現してしまうとは……。私はファンの方のすごさを少々侮っていたようです。ともかく、これでこのハンカチをバスタオルのように巻きつけた情けない姿から解放されるのです。ここは彼女に感謝をしつつ、着替えるべきでしょう。



「…ふう、本当にぴったりサイズですね。驚きました」
「わぁっとっても似合います!サイズ、合ってよかったですー!」
「すごいすごい!七海すごいよ!」

ふたりに後ろを向いてもらって衣装に着替え、よくできているなとつまんだりひっぱってみたりまじまじと見ていると、音也と七海君の期待に満ちた瞳がじっと見ていました。一体何でしょう。最早嫌な予感しかしません。

「あの、一ノ瀬さん…」
「トキヤ…」

「お願いがあるんです」
「お願いがあるんだけど」

「な、なんですか」

「おはやっほーって言ってください!」
「おはやっほーって言って!!」

――この2人、こんなに似ていたでしょうか…。
小動物というか、犬というか、とにかくあの、見るからに庇護欲を誘ういきものとそっくりです。もともとまるい瞳をさらにまんまるくさせて、きっと本当に尻尾がついていたらちぎれんばかりに振っているんだろうなという感じの弾んだ声で、おねだりなんてしないでください。


「一ノ瀬さんがこの姿で『おはやっほー』って言ってくださったら私、もうしんでもいいです!」
「何を大げさな…」
「大げさじゃないよトキヤ、お願い!そのサイズで『おはやっほー』って言ったらもう絶対絶対可愛いよ!!」
「可愛いなんて言われても嬉しくありません!私は男ですよ!?」
「一ノ瀬さんお願いですお願いします一度でいいですから〜…」
「トキヤー…」

全く、どうして、一体なぜこのような事になってしまったのでしょう。けれど、こうなってはこのふたり、私が要望を飲むまで解放してはくれなさそうです…。

「…いちどしかしませんからね」

音也と七海くんそれぞれに念を押すように目を合わせ、すうっと大きな深呼吸をひとつ。

『あれ、今日のお客さんはたったふたりっきりなのかにゃ?まぁいっか、じゃあいつもより元気にいってみよう! おーはやっほ〜!HAYATOファンのみんなぁ、元気かにゃぁ?今日はトクベツに、ここ、早乙女学園の寮でボクの元気をおすそわけしちゃいま〜すっ!』

「わぁぁ本当にHAYATO様です…感動です!!」
「か、かわいいよトキヤ!」

『春歌ちゃん、いつもボクの番組を見てくれてありがとうっ。これからも応援よろしくね?』
「ははははいっ!!ずっとずーっと、応援してます…!」

『音也くーん?音也くんはたまに寝坊しちゃってるみたいだけどー、毎日テレビの中のボクと一緒におはやっほーって言ってくれたらうれしいにゃ?』
「はいっ!がんばりますっ!」

『うんうん。ふたりとも素直でいいこだにゃ〜。ボクはふたりのことが、だいだいだーいすきだよっ!』






改定履歴*
20120111 新規作成
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