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不本意ですが、ほっとします

あれから音也は、私をそっとベッドの上に置くと、目線を合わせるように床へ座りこみ、ひたすら私を安心させようと優しい言葉をかけ続けてくれました。あまりのやさしい声と表情に、せっかく我慢した涙が零れてしまいそうになります。それでも涙を見せるのは恥ずかしいから、零れ落ちてしまう前に身体に巻きつけたハンカチで拭うのに忙しいです。

「大丈夫だよ。きっとすぐに戻るよ。ねっ」
「そうでしょうか…」
「戻らなくても、俺がトキヤのことずっと守ってあげる。一生大事にする!だから安心して、ね?」

……音也は、ずるいです。『一生大事に』だなんて、そんなプロポーズのような言葉をこんな時に言うなんて。その言葉に、あれだけ止めようと思っても止まってくれなかった涙が、ぴたりと止まってしまいました。それどころか、驚きのあまりに、呼吸することさえも忘れてしまいそう。

私は、音也のことがすきです。友達としてではなく、恋愛感情で。けれどこの学校は絶対に破ってはいけない恋愛絶対禁止令があるし――そもそも、男同士です。だからこんな気持ちは気のせいなのだと、ずっとずっと自分の気持ちを抑えつけていたのに。あなたがそんな風に言ってくれるから、あなたも私のことを好きでいてくれているのだろうかと、そんなしあわせな勘違いをしてしまいそうになります。

「俺の胸ポケットに入って、どこにだって一緒に行こうよ。俺、トキヤと一緒がいいよ」
「……こんな情けない姿でもですか」
「そんなことない、可愛いよ。ちっちゃくなってもトキヤはトキヤ。俺の大切なルームメイトだよ」

ああ、あなたはきっと知らないのでしょう。あなたのたったひとつの言葉が、こんなにも私を安心させるということを。音也に、『大切』だと言ってもらえたことが嬉しくて仕方なくて、また涙が滲んでしまったのでした。






改定履歴*
20120111 新規作成
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