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HAYATO強化月間 -1-

「はぁ?何それ」
「言葉の通りです。私は今この瞬間からずっと、HAYATOです。楽屋でも、寮でもずっと」
「何でさ!意味わかんないよ!」
「あなただってさっき一緒にいたでしょう?仕事中だというのに、私は一瞬、『トキヤ』に戻ってしまった」

思わず大きくなる俺の声と対象的に、静かな、でも意思の強いトキヤの声が二人きりの楽屋に響く。今日俺達はテレビの仕事で二人一緒にテレビ局にやってきていて、ちょうど先程入念なリハーサルを終えて楽屋に戻ってきたところだ。

トキヤが言っているのは、きっとスタジオを出てプロデューサーや監督に指示を受けていた時の話だろう。確かにあの時、トキヤは『HAYATO』じゃなく『トキヤ』の感じで指示を聞いていた。だけど別にプロデューサーも監督もHAYATOはトキヤが演じているキャラクターだってこと知ってるんだし、何より本番じゃないんだからそこまで気にすることないのに。それでもトキヤは、意図せず素の自分に戻ってしまった事が相当ショックだったみたいで、普段なら素の自分に戻る楽屋や寮でまで『HAYATO』を演じ続ける、とそう言ったのだ。

「…HAYATO強化月間ってこと?」
「そのようなものです」
「できるわけないよそんなのー!トキヤ疲れちゃうよ」
「できます!疲れなんて平気です。私はプロですからやると言ったら絶対にやり遂げます」

完璧主義者で努力家なトキヤらしい結論だなぁ、とは思うけど。けどやっぱり面白くない。というか、嫌だ。俺はトキヤのパートナーで恋人で、そんな俺と二人きりの時くらい思いっきりリラックスしてほしいよ。四六時中HAYATOのままなんて疲れるに決まってるでしょ。そんなの了承できるわけない。

「楽屋も?移動中も?」
「無論です」
「……ふたりのときも、トキヤじゃなくってHAYATOなの」
「そ…そうです」

俺はトキヤの事を心配して言ってるのに、当の本人は自分のミス(って思ってるのはトキヤ本人だけだ)でいっぱいいっぱいで、そんなの気付いてない様子だ。トキヤ、真面目なのはいんだけど融通利かないことあるからなー。きっと今だって、俺の言葉に一瞬揺らいだものの一旦口に出した言葉を撤回するなんてできないんだろう。そんな感じだ。

「へぇ…」
「と、とにかく!今年いっぱい、私はいつ何時でもHAYATOとして振舞いますからそのつもりで」
「…ふぅん。まぁできるならいいんじゃない」

トキヤは呆れたような俺の言葉にカチンときたのか、ぷいと背を向けるとそのままソファに座り台本を手にして、ペンで真っ赤に染まったページを開いて熱心に読み出した。俺も同じ台本を持っているけど、俺のとは全然違う。折り目も書き込みもいっぱいあって、使い込まれた感じだ。きっともう何度も読み返して、頭の中でシミュレーションしたんだろう。

今は年末で、仕事量も多くて、トキヤは疲れてたんだよ。だから一瞬素に戻っちゃったんだよ。なのにまだ努力を怠らなくて、ほんと真面目だなぁと思う。俺はそんなトキヤのことが好きだよ。だけど、たまに意地悪したくなる。っていうか構ってほしくなる。そして、俺はどうやったらトキヤが構ってくれるかってことも知ってる。

俺はトキヤによると、どうも愛情表現がストレートすぎるところがあるらしい。帰宅直後のトキヤに玄関先で抱きついたり、目があったらキスしたりとかは日常茶飯事だ。トキヤはため息をつきながらも嬉しそうに受け入れてくれて、そんな俺の事を『あなたは本当に、ペットの犬みたいですね』なんてことをすっごく優しい声で言う。

ねぇトキヤ、可愛い犬だって尻尾振って懐くだけじゃなくて飼い主の好きなこととか癖とか、繰り返すうちに覚えちゃうものなんだよ?俺がお前と同室になって、そして恋人になってからどれくらい経っただろう。お前をその気にさせるのなんて、もう、歌うのと同じくらい自然にできちゃうってこと知ってた?

「HAYATO」

トキヤの隣に座って、肩に腕をまわしてぐいっと引き寄せて頬にキスをする。一度じゃ効果薄いから、二度、三度と繰り返して、トキヤの呼吸が一瞬止まったら次は耳へ。トキヤは耳たぶぺろって舐められるの弱いよね。ほら今肩がぴくんって動いた。もう台本の内容なんて頭に入ってこないでしょ?俺ちゃんと知ってるんだから。






改定履歴*
20111215 新規作成
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